《姉妹》とは|酷評されながらも気高さを認められた肖像画の実験作を徹底解説

《姉妹》(1884年)は、アメリカの画家アボット・ハンダーソン・セイヤーによる油彩画で、ニューヨークのブルックリン美術館が所蔵する作品です。黒い服をまとった二人の姉妹が、戸口に寄り添うように立つこの絵は、当時の批評家たちから技術的な粗さを厳しく指摘されながらも、その構図の気高さゆえに、セイヤーの代表作の一つとして今日高く評価されている作品です。

目次

基本情報

項目内容
作者アボット・ハンダーソン・セイヤー(1849〜1921)
制作年1884年(1883年夏に着手)
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ138×92.1cm
所蔵ブルックリン美術館(ニューヨーク)
モデルベッシー・グレイ・スティルマン(前列)、クララ・フランシス・スティルマン(後列)
依頼主銀行家ジェームズ・スティルマン(モデル姉妹の兄)

一言でいうと

《姉妹》は、黒い簡素な衣装をまとった二人の姉妹が、一方が相手の腰に腕を回し、もう一方が戸口の枠に手をかけるという、通常の肖像画にはない親密で複雑な身体の配置で描かれた作品でありながら、発表当時は技術的な粗さを厳しく批判され、それでもなおその構図の気高さによって、後世に高く評価されるようになった、評価の逆転劇を体現する一枚である。

制作背景

この絵のモデルとなったのは、銀行家ジェームズ・スティルマンの妹たち、ベッシー・グレイ・スティルマンとクララ・フランシス・スティルマンです。この肖像画は、二人の兄であるジェームズからセイヤーに依頼され、1883年の夏に着手されました。この作品は当時セイヤーが手がけた中でもっとも大きな肖像画であり、構図は幾度もの試行錯誤の末にようやく決定されたと伝えられています。

セイヤーは1881年に手がけた《ミルトン夫人の肖像》において、当時のパリ・サロン風の華美な衣装表現が「趣味が悪い」と批評家から酷評された経験を持っていました。この一件以降、セイヤーは過度に装飾的な衣装表現を避けるようになり、《姉妹》においても、二人の姉妹はごく簡素な黒い服をまとい、落ち着いた緑がかった背景の前に立つ姿で描かれています。

見どころ

構図:妹のベッシーが手前に立ち、両手を体の前で組み合わせた姿勢を取っています。その真後ろに立つ姉のクララは、左手を妹の腰に回して抱き寄せながら、右手を高く掲げて戸口の枠にかけています。この通常の肖像画にはあまり見られない身体の配置は、二人の間にある複雑で親密な関係性を、静かに、しかし雄弁に物語っています。

評価の分裂:この絵は1884年のアメリカ美術家協会展において、名誉ある位置に展示されました。しかし同時に、批評家たちからはその仕上げの「薄弱さ」を厳しく指摘されます。ベッシーの右前腕の描写が貧弱であること、クララの左手の描き込みが弱いこと、そして全体の筆致が労苦の跡を感じさせることなどが、具体的な欠点として挙げられました。依頼による肖像画には、より入念な仕上げが期待されていたことも、この批判の背景にあります。技術的な瑕疵を指摘されながらも、その構図の気高さについては、同時代のトマス・エイキンズの肖像画にも匹敵すると評されました。

後世への影響:1880年代半ばのセイヤーの肖像画、とりわけこの《姉妹》に見られる優雅さと抑制された色調は、後に彼の若き同僚であった画家デニス・ミラー・バンカーの作品にも影響を与えたとされています。

来歴

この絵は、モデルとなったベッシー・グレイ・スティルマンの遺贈により、1935年にブルックリン美術館の所蔵となりました。セイヤーの伝記作者ネルソン・C・ホワイトは、1922年のある展覧会でこの絵を鑑賞していた際、二人の年配の女性が絵の前に立ち止まるのを目にし、それがまさにこの絵のモデルとなった当人たちであることに気づいたという逸話を書き残しています。セイヤーが若き日の二人の人柄をあまりに的確に捉えていたため、年月を経てもなお、その面影から本人だと見分けがついたというのです。

よくある誤解

誤解①「二人の姉妹は肖像画によくある通常のポーズで並んで立っている」→ 実際は一方が相手の腰を抱き、もう一方が戸口に手をかける複雑な構図である
姉妹の肖像画という穏やかな主題から、二人が単純に並んで立つ構図を想像しがちですが、実際には妹の腰に姉が腕を回して抱き寄せ、同時に戸口の枠に手をかけるという、通常の肖像画にはあまり見られない、複雑で親密な身体の配置がとられています。

誤解②「依頼による肖像画として、発表当時から高く評価されていた」→ 実際は技術的な粗さを理由に酷評された
名誉ある展示位置を与えられたことから、当初から称賛を浴びた作品だと思われがちですが、実際には発表当時の批評家たちから、腕や手の描写の弱さ、労苦を感じさせる筆致など、仕上げの「薄弱さ」について厳しい批判を受けています。

FAQ

Q. 《姉妹》とはどんな作品ですか?
A. セイヤーが1884年に手がけた油彩画で、銀行家ジェームズ・スティルマンの依頼により、その妹であるベッシーとクララのスティルマン姉妹を描いています。ブルックリン美術館が所蔵しています。

Q. なぜ二人は簡素な黒い服を着ているのですか?
A. セイヤーが1881年の別の肖像画で華美な衣装表現を批評家から酷評された経験から、以後は装飾的な衣装表現を避けるようになったためとされています。

Q. この絵は発表当時どのように評価されましたか?
A. 名誉ある位置に展示された一方で、腕や手の描写の弱さなど、仕上げの粗さを理由に批評家から厳しく批判されました。しかし構図の気高さについては、トマス・エイキンズの肖像画にも匹敵すると評価されています。

Q. 《姉妹》はどこで見られますか?
A. アメリカ・ニューヨークのブルックリン美術館が所蔵しています。

まとめ

《姉妹》は、黒い簡素な衣装をまとった二人の姉妹が、一方が相手の腰に腕を回し、もう一方が戸口の枠に手をかけるという、通常の肖像画にはない親密で複雑な身体の配置で描かれた作品でありながら、発表当時は技術的な粗さを厳しく批判され、それでもなおその構図の気高さによって、後世に高く評価されるようになった、評価の逆転劇を体現する一枚です。酷評した批評家たちが見落としていたのは、拙さに見えたその筆致こそが、二人の間にしかない親密さを掬い取るための、画家なりの誠実さだったのかもしれません。

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