《コーゼル包囲戦》とは|コベルが描いたバイエルン軍の戦勝記録

《コーゼル包囲戦(独:Die Belagerung von Kosel)》は、ドイツの風景画家ヴィルヘルム・フォン・コベルが1808年に手がけた油彩画で、現在はミュンヘンのノイエ・ピナコテークに所蔵されている。ナポレオン戦争のさなか、バイエルン軍とその同盟軍がプロイセン軍の要塞都市コーゼルを包囲した史実を描いたこの絵は、バイエルン王太子ルートヴィヒが依頼した12点連作「大戦争画」の記念すべき第1作だ。今回はこの絵が描かれた歴史的経緯と、風景画家であったコベルが戦争画にどう向き合ったのかについて見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者ヴィルヘルム・フォン・コベル(1766〜1853)
制作年1808年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約202×305.5cm
所蔵ノイエ・ピナコテーク(ミュンヘン)
依頼主バイエルン王太子ルートヴィヒ(のちのルートヴィヒ1世)

一言でいうと

風景画家として名を成した画家が、朝の柔らかな光のなかで指揮官たちを静かに佇ませることで、戦争画でありながら喧騒よりも静謐さを漂わせてしまう1枚。

制作背景

プロイセン領シレジアへの侵攻

ナポレオン戦争のさなか、ナポレオンはバイエルン王マクシミリアン1世ヨーゼフの同盟軍とともに、プロイセンが支配していたシレジア地方への侵攻に成功した。ナポレオンは弟ジェローム・ボナパルトに、コーゼルを含むいくつかの要塞都市の掃討を任せている。1807年1月23日からバイエルン軍によって包囲されていたこの要塞は、同年3月15日、プロイセン軍による突破の試みがバイエルン・ヴュルテンベルク連合軍によって撃退されるという展開を迎えた。

王太子ルートヴィヒによる連作の依頼

この戦役の成功を記念して、王太子ルートヴィヒ(のちのバイエルン王ルートヴィヒ1世)は、17世紀の画家フランツ・ヨアヒム・バイヒが手がけた戦争画連作を手本に、コベルへ12点からなる大規模な戦争画連作を依頼した。画家ヨハン・ゲオルク・フォン・ディリスが、王太子のイタリア教養旅行に同行した経験から、バイエルン軍が参加したナポレオン戦争の戦いを絵画として記録するようルートヴィヒに助言したことが、この計画のきっかけになったとされる。この連作は1808年から1815年にかけて制作され、最後の作品「バール=シュル=オーブの戦い」は1817年に完成している。

静止した指揮官たちという構図

制作当時の記録によれば、この最初の作品は、朝の光に照らされながら静かに佇む指揮官たちの一団と、彼らが見下ろす遠くの町、そして影に沈んだ谷間での戦闘という構図で描かれている。連作後期の作品と比べ、この絵にはまだ1800年ごろの水彩画に見られたような、大気の層をトーンで描き分ける手法が色濃く残されているとされる。

見どころ

Die Belagerung von Kosel 1806. Entstanden 1808.

高台から戦況を見下ろす指揮官たち

画面右手前、丘の上に集う指揮官たちの一団が、遠くに広がる町とその周辺の戦況を静かに見渡している。馬にまたがった姿でありながら、動きを止めて佇むその姿が、戦争画にしては珍しい落ち着いた雰囲気を画面にもたらしている。

葉を落とした木々と早春の空

画面右には、まだ葉のない裸の木々が高くそびえ、その先には淡い雲の広がる空が描かれている。戦いの緊張感よりも、季節の移ろいと自然の静けさを丁寧に描き込む姿勢に、風景画家としてのコベルの本領が発揮されている。

遠景に霞む要塞都市コーゼル

画面中央奥には、攻囲されている要塞都市コーゼルが、朝もやのなかにかすんで小さく描かれている。この距離感のある描写によって、手前の指揮官たちの静けさと、遠くで進行する戦闘との対比が際立っている。

整然と並ぶ騎馬兵たち

画面右端には、白い毛皮帽をかぶった騎馬兵たちの一団が整然と並んでいる。彼らの規律ある佇まいが、バイエルン軍の統制と士気の高さを静かに物語っている。

実際に見るには

本作はミュンヘンのノイエ・ピナコテークに所蔵されている。同館には連作の他の作品、たとえば1815年に完成した「バール=シュル=オーブの戦い」も所蔵されており、あわせて見ることで、コベルが10年近くにわたって手がけたこの戦争画連作の様式の変遷をたどることができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「典型的な戦闘場面を描いた戦争画」として紹介されがちだが、実際には激しい戦闘そのものよりも、指揮官たちが静かに戦況を見守る落ち着いた場面に主眼が置かれている。もともと風景画を得意としていたコベルならではの、自然描写への強いこだわりが画面全体に息づいている点を知ると、この絵の見え方も変わってくる。

FAQ

Q. 《コーゼル包囲戦》はどこで見られますか?
ミュンヘンのノイエ・ピナコテークに所蔵されている。

Q. この絵はどんな史実を描いていますか?
1807年、バイエルン軍を中心とする同盟軍がプロイセン領の要塞都市コーゼルを包囲し、プロイセン軍の突破を撃退した戦いを描いている。

Q. この絵はどんな連作の一部ですか?
バイエルン王太子ルートヴィヒが依頼した、ナポレオン戦争の戦いを記録する12点からなる「大戦争画」連作の第1作である。

Q. コベルはもともとどんな画家でしたか?
風景画や農民の情景、狩猟の場面を得意とした風景画家で、この連作をきっかけに戦争画も手がけるようになった。

Q. この連作はいつ完成しましたか?
1808年から1815年にかけて制作され、最後の作品は1817年に完成している。

まとめ

《コーゼル包囲戦》は、激しい戦闘の喧騒よりも、朝の光のなかで戦況を見守る指揮官たちの静けさを丁寧に描いた1枚だ。風景画家としての眼差しを戦争画に持ち込んだコベルの筆致が、この絵に独特の落ち着いた気配を与えている。

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