《薔薇垣の聖母》とは|ロホナーが遺したケルン派絵画の頂点

《薔薇垣の聖母(独:Madonna im Rosenhag)》は、後期ゴシックの画家シュテファン・ロホナーが1440年から42年ごろに手がけた板絵で、現在はケルンのヴァルラーフ・リヒャルツ美術館に所蔵されている。薔薇の垣根に囲まれ、天使や聖人たちにかしずかれながら幼子キリストを抱く聖母マリアを描いたこの絵は、ケルン派絵画の様式が到達した頂点とされる作品だ。今回はこの絵に描かれた図像の由来と、薔薇という花に込められた象徴について見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者シュテファン・ロホナー(1400/10頃〜1451)
制作年1440〜42年ごろ
技法・素材混合技法・板
サイズ約50×40cm
所蔵ヴァルラーフ・リヒャルツ美術館(ケルン)

一言でいうと

とげのない薔薇に囲まれ、天使たちの奏でる音楽に包まれる聖母子。この小さな板絵1枚に、後期ゴシック期のケルンで花開いた繊細な絵画様式のすべてが凝縮されている。

制作背景

「とげのない薔薇」という伝承

この絵の題名にある薔薇の垣根には、古い伝承が背景にある。人類が楽園を追われる以前、薔薇にはとげがなかったとされ、原罪から免れていたとされる聖母マリアは、そのため「とげのない薔薇」と呼ばれるようになった。この伝統から、聖母が薔薇の垣根や薔薇の茂みの前に座す「薔薇の聖母」という図像類型が広まり、ロホナーのこの絵はその典型的な一例とされている。

天上の楽園としての図像

「薔薇垣の聖母」はまた、聖母が「天の女王」として幼子とともに玉座に座る「楽園の聖母」という図像類型にも連なっている。金地の背景と、周囲を埋め尽くす天使たちの姿は、この場面が地上の一場面ではなく、天上の楽園そのものであることを示している。

ロホナー最後期の作とされる1枚

この絵の正確な制作年代は美術史家のあいだで長年議論の対象となってきたが、現在ではおおよそ1440年から42年ごろに位置づけられている。一部の研究者は1445年、あるいは1451年ごろまで下がる可能性も指摘しており、いずれにせよロホナーの円熟期、あるいは現存する最後期の作品ではないかと考えられている。

ケルンを代表する1枚として

この絵は、ケルン出身の画家による作品のなかでも最も有名なものの一つとされ、これまで数え切れないほど複製・印刷されてきた。現在ではヴァルラーフ・リヒャルツ美術館の看板作品として、絵葉書やマグネットなど数々のグッズにもそのデザインが使われている。

見どころ

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宝冠を戴く聖母マリア

画面中央、聖母マリアは宝石をちりばめた冠を戴き、青い衣に身を包んで座っている。伏し目がちな穏やかな表情が、周囲を彩る華やかな装飾とは対照的な静けさを画面にもたらしている。

幼子キリストと林檎

聖母の膝には幼子キリストが座り、小さな林檎を手にしている。この林檎は、人類を原罪へと導いた禁断の果実を思わせると同時に、キリストによる救済を暗示する図像として読み取ることができる。

楽器を奏でる天使たち

聖母の左右には、リュートやハープ、パイプオルガンといった楽器を奏でる天使たちが並んでいる。彼らの奏でる音楽が、この場面全体を天上の祝祭のような雰囲気で満たしている。

頭上に現れる神の姿

画面最上部には、雲間から現れる神の姿が小さく描かれている。地上の聖母子の場面と、天上の神の存在とが一つの画面のなかに重ね合わされることで、この絵全体が三位一体の神秘を暗示する構成になっている。

金地に描かれた薔薇の垣根

聖母の背後には、金色の格子に絡みつく薔薇の蔓が精緻に描き込まれている。とげを持たないとされるこの薔薇の垣根が、聖母の無原罪性を静かに物語る舞台装置として機能している。

実際に見るには

本作はケルンのヴァルラーフ・リヒャルツ美術館に所蔵されている。同館にはロホナーの他の代表作「最後の審判」も収蔵されており、あわせて見ることで、彼が後期ゴシック期のケルンでどのような画風を確立していったかをたどることができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「単なる愛らしい聖母子像」として鑑賞されがちだが、実際には薔薇の伝承や楽園の図像類型など、当時のマリア信仰にまつわる複雑な神学的背景が緻密に織り込まれている。装飾の華やかさだけでなく、薔薇1本、林檎1個に込められた象徴の意味を読み解くことで、この絵の本来の深みがより見えてくる。

FAQ

Q. 《薔薇垣の聖母》はどこで見られますか?
ケルンのヴァルラーフ・リヒャルツ美術館に所蔵されている。

Q. なぜ「とげのない薔薇」という伝承が関係しているのですか?
原罪から免れた聖母マリアが、楽園追放以前のとげのなかった薔薇になぞらえられたという中世の伝承に由来する。

Q. この絵はいつごろ描かれましたか?
1440年から42年ごろとされているが、1451年ごろまで下がる可能性も指摘されている。

Q. 画面上部に描かれている人物は誰ですか?
雲間から姿を現す神で、地上の聖母子の場面と重ね合わされることで三位一体を暗示している。

Q. この絵はロホナーのどんな位置づけの作品ですか?
円熟期、あるいは現存する最後期の作品と考えられており、ケルン派絵画の頂点とされている。

まとめ

《薔薇垣の聖母》は、とげのない薔薇という中世の伝承を軸に、聖母マリアの無原罪性と天上の楽園を1枚の板絵に凝縮した作品だ。金地に描かれた繊細な薔薇の蔓と、音楽を奏でる天使たちの姿は、後期ゴシック期のケルンで花開いた絵画様式の粋を、今もそのまま伝え続けている。

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