《美徳と高貴が無知を追い払う(英:Virtue and Nobility putting Ignorance to Flight)》は、ヴェネツィア・バロックの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロが1743年ごろに手がけた油彩画で、現在はロンドンのダルウィッチ美術館に所蔵されている。抱き合う2人の寓意的な人物を中心に、雲間を舞う天使や敗れ去る敵対者を描いたこの絵は、実際の天井画のための準備段階として制作された「モデッロ(下絵)」だ。今回はこの絵が実際にどんな建物のために構想されたのか、そしてティエポロならではの筆致の魅力について見ていく。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ(1696〜1770) |
| 制作年 | 1743年ごろ |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 約64.2×35.6cm |
| 所蔵 | ダルウィッチ美術館(ロンドン) |
一言でいうと
無知という敵を空へと追い払いながら、抱き合う美徳と高貴の姿を描き切る。実際の天井にはめ込まれる予定だった壮大な構図が、この小さなカンヴァスのなかに凝縮されている。
制作背景
ヴィチェンツァ近郊の別荘のための構想
この絵は、ティエポロがヴィチェンツァ近郊のヴィッラ・コルデッリーナで1743年から44年にかけて手がけた天井画のための、準備段階のスケッチ、いわゆる「モデッロ」として制作されたと考えられている。実際の天井装飾に取りかかる前に、構図や色彩の配置を検討するためにこうした小型の油彩スケッチを描くことは、ティエポロが好んで用いた制作手法だった。
教育と啓蒙をめぐる寓意
画面に描かれた寓意像は、抱き合う2人の人物、すなわち月桂冠を手にする「美徳」と、小像を手にする「高貴」を中心に据えている。彼らのそばにはトランペットを吹く「名声」の姿もあり、地上へと追い払われる「無知」との対比によって、啓蒙思想の時代らしい教育的なテーマが視覚化されている。この主題は、当時の貴族の邸宅装飾によく見られた、知識と美徳の勝利を称える伝統的な図像に連なっている。
ティエポロならではの軽やかな筆致
美術史家たちは、この絵に見られる鷲の翼や兜をかぶった人物の衣の描写について、ティエポロらしい軽やかで機敏な筆遣いが顕著に表れていると評している。素早い筆致でありながら形態の豊かさを失わない、この小型作品ならではの魅力が随所に見て取れる。
見どころ

抱き合う美徳と高貴
画面中央、月桂冠を掲げる美徳と、小像を手にする高貴の2人が寄り添うように描かれている。この抱擁は、知性と身分の高さが手を携えて理想を追求する姿を象徴しているとされる。
トランペットを吹く名声
2人のそばには、トランペットを高らかに吹き鳴らす「名声」の姿が配されている。この身振りが、美徳と高貴の勝利を天上に響き渡らせるような効果を絵全体に与えている。
冠を掲げる幼い天使
画面上部には、月桂冠を高く掲げて飛ぶ幼い天使の姿が描かれている。軽やかな筆致で表現されたその羽と身のこなしが、画面全体に上昇感と祝祭的な雰囲気をもたらしている。
追い払われる無知の姿
画面下部には、地上へと落とされていく人物の姿がわずかに見え、これが「無知」を表しているとされる。上へ向かう美徳たちと、下へ落ちる無知という垂直方向の対比が、この絵の寓意的な構造を明快に伝えている。
実際に見るには
本作はロンドンのダルウィッチ美術館に所蔵されている。同館にはティエポロの他の準備スケッチも収蔵されており、あわせて見ることで、彼が実際の大型天井画を手がける前にどのような構想の過程を経ていたのかを知ることができる。
よくある誤解
この絵はしばしば「単独で完結した装飾画」として鑑賞されがちだが、実際にはより大きな天井画を実現するための準備段階のスケッチである。完成品としての天井画そのものではなく、その構想過程を伝える資料として見ることで、ティエポロの制作プロセスへの理解がより深まる。
FAQ
Q. 《美徳と高貴が無知を追い払う》はどこで見られますか?
ロンドンのダルウィッチ美術館に所蔵されている。
Q. この絵は何のために描かれたのですか?
ヴィチェンツァ近郊のヴィッラ・コルデッリーナの天井画のための、準備段階のモデッロとして制作されたと考えられている。
Q. 画面に描かれている寓意的な人物は誰ですか?
月桂冠を持つ「美徳」、小像を持つ「高貴」、トランペットを吹く「名声」、そして地上へ追い払われる「無知」が描かれている。
Q. この絵はいつ制作されましたか?
1743年ごろに制作された。
Q. モデッロとはどんなものですか?
実際の大型作品に取りかかる前に、構図や色彩を検討するために描かれる小型の油彩による下絵のことである。
まとめ
《美徳と高貴が無知を追い払う》は、実際の天井画を実現するための構想段階でありながら、それ自体が独立した魅力を持つ1枚だ。軽やかな筆致で描かれた寓意像たちの躍動感には、ティエポロが本制作に向けてどれほど自在に構図を練り上げていたかが、生き生きと刻まれている。
