オディロン・ルドン《サボテン男》とは|植木鉢から生える、棘だらけの人の頭

《サボテン男》(1881年)は、オディロン・ルドンが、木炭で描いた素描で、植木鉢から、人の頭が生えている、奇怪な姿を描いています。頭の皮膚は、サボテンのような細い棘に覆われ、首は、植物の茎のように、下から立ち上がっています。ルドンが「ノワール(黒)」と呼んだ、木炭とリトグラフの時代を代表する作品の一つです。

基本情報

作者はオディロン・ルドン(1840〜1916)、制作年は1881年とされます(1880年、1882年とする資料もあります)。技法は紙に描いた木炭で、サイズは、縦49×横32.5cm(WebMuseum)、または縦46.5×横31.5cm(ウィキメディア・コモンズなどの記載)です。所蔵は、ニューヨークのウッドナー・ファミリー・コレクション(個人蔵)とする資料が多く、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の所蔵と記す資料もあります。画面の左下には、「ODILON REDON」の署名があります。原題は、「L’Homme-cactus」、英語では、「Cactus Man」です。

ルドンの「黒(ノワール)」

ルドンは、1879年に、石版画集『夢のなかで』を発表しました。このとき、39歳でした。若いころに、放浪の版画家ロドルフ・ブレスダンに学び、「黒」の可能性に開眼したルドンは、自分の木炭や版画の作品を、「私の黒(ノワール)」と呼び、奔放な空想と、独自の造形を追求しました。

ルドンは、50歳ごろから、パステルや油彩による、色彩の作品へと移りますが、それ以前の約20年間は、「黒の画家」として知られました。眼球や、首、人面の花、怪物など、奇怪なイメージが、この時期の作品の特徴です。

見どころ|棘の頭

画面の中央には、大きな人の頭が、斜めに傾いて、こちらを見下ろしています。頭の上や、顔の周りには、短く、鋭い棘が、放射状に伸びています。顔は、暗い陰影で、肉づけされ、目は、重そうなまぶたの下で、焦点が定まらず、鼻は、平たく、唇は、厚く、わずかに開いています。

首は、太い柱のように、下へ伸び、画面の下の、四角い鉢へつながっています。鉢の側面には、うっすらと、人物と植物のような図柄が、彫られています。

背景は、淡い黄褐色の紙の地に、煙のような、雲のような陰影が広がり、右下の、地面の線が、画面を横切っています。

解釈

ザ・アート・ストーリーなどの解説は、頭を覆う棘が、サボテンを思わせるとともに、キリストの茨の冠や、ほかの殉教者を連想させると述べています。顔つきは、「観察しているようでもあり、無関心でもある」と評されます。

鉢には、男を殺す、ギリシア神話の女戦士アマゾネスの場面が飾られているとされ、女性と男性の要素の混ざり合いが、人間と植物の混ざり合いという、画面の主題と、呼応していると解説されます。

1881年のパリの見世物

美術史家のバーバラ・ラーソンは、ルドンが、《サボテン男》を描いた1881年に、パリで、ティエラ・デル・フエゴ(南米南端)の先住民が、見世物として展示された展覧会を、見ていたと指摘しています。19世紀後半のフランスでは、こうした「原始人」の展示が、人類の過去の段階を見せるものと、一般に考えられていました。ラーソンは、《サボテン男》が、ルドンの、「原始の人」に対する、相反する考えを表していると述べます。この人物は、純粋で、自然のままの人間でありながら、野蛮で、制御のきかない存在でもあります。また、人物は、西洋文明の象徴である、四角い鉢から、生えています。

ザ・アート・ストーリーは、この点を踏まえ、鉢から生える人と植物の混ざり合った姿が、自然と文化、野生と文明という、人間の二つの極を、調和させようとする試みとして、理解できると解説しています。ただし、これは、研究者の解釈の一つで、ルドン自身の言葉は、確認されていません。

進化論との関係

ルドンの、人間と植物、動物の混ざり合った怪物は、ダーウィンの進化論など、同時代の自然科学の知識とも、深く関係していたとされます。ラーソンは、ルドンの「混ざり合った形」の作品が、「変態説(トランスフォルミスム)」の考えに基づくものだと述べています。

まとめ

《サボテン男》は、人の頭と、植物の棘という、異なるものを、一つの存在にまとめた作品です。穏やかなような、無関心なような顔と、鋭い棘の対比が、見る者を、不安にさせます。黒の世界のなかで、ルドンは、人間の内側に潜む、自然と文明、野生と秩序の、せめぎ合いを、静かに描き出しました。

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