《ルーアンのボワエルデュー橋、日没、霧》(1896年)は、カミーユ・ピサロが、ノルマンディーの港町ルーアンで、ホテルの窓から見下ろした、セーヌ川と、鉄の橋を描いた作品です。橋の上には、馬車と、歩く人々が、小さな点のように並び、川には、大きな蒸気船が停まり、遠くの工場の煙突からは、煙が立ちのぼっています。沈みかけた太陽が、霧と煙の向こうから、淡い桃色と橙色の光を、画面全体に、にじませています。パリのオルセー美術館が所蔵し、ルーアン美術館に寄託されています。
基本情報
作者はカミーユ・ピサロ(1830〜1903)、制作年は1896年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは、オルセー美術館の記録で、縦54×横65cm(額縁を含めると縦78.5×横89.5cm)です。1983年に、物納(ダシオン)により、国の所蔵となり、収蔵番号は、RF 1983 7です。現在は、ルーアン美術館に寄託されています。画面の左下には、「C. Pissarro. 1896」と、署名があります。
制作の背景|ルーアンの連作
ピサロは、1883年に、初めてルーアンを訪れ、1896年に、再び訪れました。この年は、1月から4月まで、そして秋にも、ルーアンに滞在し、ホテルの部屋から、港や、橋を、さまざまな天候と、時刻で、描き続けました。この作品は、1896年2〜3月に、描かれたものです(オルセー美術館の記録)。ボワエルデュー橋は、1885年に完成した、鉄の橋です。
ピサロは、1896年2月26日付の、息子リュシアン宛の手紙で、この作品を、次のように説明しています。「雨の日の、鉄の橋の主題で、たくさんの馬車、歩行者、岸辺の労働者、船、煙があり、遠くには霧がかかっていて、とても生き生きと、動きがある」(趣旨、オルセー美術館に引用)。
この絵は、1896年4月11日に、画家から、画商デュラン=リュエルが購入しました。同年4月15日から5月9日まで、パリのデュラン=リュエル画廊で開かれた、「ピサロの近作展」(第9番)で展示されました(オルセー美術館)。
見どころ|光と煙

画面の下半分を、斜めに横切る橋が、占めています。石の橋脚が、水に影を落とし、橋の上には、行き交う馬車と、群衆が、細かい筆の点で、描かれています。川面は、青、紫、桃色、橙色の短い筆触で、きらめき、橋脚の影は、深い青灰色で、描かれています。
画面の右側では、大きな黒い船体の蒸気船が、白い蒸気を上げて停泊し、その向こうに、石造りの建物が並びます。遠くには、いくつもの煙突が、立ち、灰色と白の煙が、風にたなびいています。
空は、画面の半分以上を占め、淡い灰色、黄色、桃色が、重なり合っています。沈む太陽は、左上の隅で、煙と霧の向こうから、光を放っています。ある解説は、雲の部分が、ほとんど平らな色ですが、周縁に、さまざまな方向へ伸びる長い筆触が、動きを与えていると述べています。
同じ橋を描いた作品
ピサロは、同じボワエルデュー橋を、さまざまな天候と、角度から、描きました。同じ構図の、雨の日を描いた作品が、トロントのオンタリオ美術館に、あります(縦73.6×横91.4cm)。また、夕日を描いた別の版が、イギリスのバーミンガム美術館に、朝の曇り空を描いた作品が、ニューヨークのメトロポリタン美術館に、あります。ドイツのカールスルーエ州立美術館にも、「雨の効果」の版があります。
まとめ
《ルーアンのボワエルデュー橋、日没、霧》は、近代の港町の、工場の煙と、蒸気と、群衆の動きを、柔らかな光の中に包み込んだ作品です。田園風景を多く描いたピサロが、晩年に、都市の景色へ向けた、新しい視線の成果でもあります。霧に煙る夕暮れの光が、人々の営みを、静かに照らしています。
