ジェローム《蛇使い》とは|青いタイルの壁の前で行われる、見せ物の場面

《蛇使い》(1879年頃)は、フランスの画家ジャン=レオン・ジェロームが、「東方」の室内を舞台に、蛇を使う少年の芸を、見守る男たちを描いた作品です。青緑色のタイルを敷き詰めた壁と、石の床を背景に、少年が、大きな蛇を体に巻き、笛を吹く老人の前に立っています。壁にもたれて座る男たちは、その様子を、じっと見つめています。細部まで緻密に描かれた画面は、現実の記録のように見えますが、実際は、さまざまな場所の要素を組み合わせた、構成された場面です。1978年に、エドワード・サイードの『オリエンタリズム』の表紙に使われ、オリエンタリズムの批判的な議論の、象徴的な作品になりました。マサチューセッツ州のクラーク美術館が所蔵しています。

基本情報

作者はジャン=レオン・ジェローム(1824〜1904)、制作年は1879年頃です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは、クラーク美術館の公式の記録で、縦82.2×横121cm(額縁を含めると、縦104.1×横142.2cm)です。収蔵番号は1955.51で、スターリング・クラークと、フランシーヌ・クラークの夫妻が、1955年より前に、入手しました。ウィキメディア・コモンズなどは、縦83.8×横122.1cmとしています。原題は、「Le Charmeur de serpents」、英題は、「Snake Charmer」または「The Snake Charmer」です。

描かれた場面

画面の中央には、少年が、背を向けて、敷物の上に立ち、片腕を高く上げています。その腕と体には、模様のある、大きな蛇が、巻きついています。少年の右には、あぐらをかいた、白いひげの老人が、細い笛を吹き、そのそばには、小さな太鼓が置かれています。

画面の左側では、壁にもたれた男たちが、並んで座っています。ターバンや、頭巾をかぶり、槍や、杖を持ち、衣服の色や、形は、さまざまです。その中心には、緑のターバンをかぶった、白いひげの、位の高そうな人物が、くつろいだ姿で座り、少年を見つめています。手前の床には、籠や、小さな壺が置かれ、壁には、円い盾と、長い槍が、掛けられています。

壁と床|組み合わされた場所

背景の壁は、青、青緑、白の、タイルで、飾られています。壁面には、アーチ形の区画と、アラビア文字(帯状の碑文)が、並んでいます。クラーク美術館は、この絵を、「イスタンブールのトプカプ宮殿のタイル張りの壁と、カイロのアムル・モスクの石の床に、着想を得た、イスラム世界の生活についての、ヨーロッパの空想」と説明しています。登場する人物たちの衣装と武器も、複数の文化に由来する、組み合わせだといいます。

クラーク美術館のカタログによれば、ジェロームは、壁のタイルの文様を、トプカプ宮殿の写真などをもとに、細部まで、ほとんど正確に写し取り、ペルシア語の詩の碑文も、再現しようとしましたが、その方法は一貫していませんでした。スミソニアン系の教育サイト、スマートヒストリーによると、ジェロームは、一部の細部を、アブドゥッラー・フレールの写真から、直接、写しています。

サイードの『オリエンタリズム』

1978年に、エドワード・サイードの『オリエンタリズム』が、この絵を、初版の表紙に使いました。英語版ウィキペディアによれば、サイード自身は、本文で、この絵に言及していません。それにもかかわらず、この絵は、オリエンタリズムの絵画を、批判する際の、「避雷針」になりました。美術史家リンダ・ノックリンは、論文「想像上の東洋」(1983年)で、ジェロームの作品を、「19世紀の植民地主義のイデオロギーの、視覚的な記録」と呼んで、批判的に論じました。

見る側の視線

クラーク美術館は、この絵について、男たちが、少年の裸の体に、視線を向けていることが、見る側の視線にも、注意を向けさせると述べています。メトロポリタン美術館の展覧会「オリエンタリズム:事実と幻想のあいだ」でも、この絵は、「きわめてエロティックな画像」であり、「典型的なオリエンタリズムの絵画」と、紹介されました。

まとめ

《蛇使い》は、緻密な写実で、事実のように見せながら、実際は、ヨーロッパの画家が、想像した「東方」の光景を、構成した作品です。見る者は、画面の青いタイルの美しさに、引き込まれると同時に、描く側の視線と、描かれる側の立場について、問い返されます。

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