《死》(1902年)は、ポーランド象徴主義の代表的な画家ヤチェク・マルチェフスキが描いた、縦長の油彩画で、ワルシャワ国立美術館が所蔵しています。大きな鎌を持つ、頭巾姿の若い女が、年老いた男の目に手を当てています。死を、恐ろしい骸骨としてではなく、静かに寄り添う若い女として描いた、マルチェフスキの「死」の連作の一つです。
基本情報
作者はヤチェク・マルチェフスキ(1854〜1929)、制作年は1902年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは縦98×横75cm。ワルシャワ国立美術館(収蔵番号MP 373)に所蔵されています。画面の左上には、「J. Malczewski 1902」と読める署名があります。ポーランド語の題は、「Śmierć」です。
作者について
ヤチェク・マルチェフスキは、1854年に、ポーランドのラドムで生まれ、クラクフで学んだ、「若きポーランド」を代表する画家です。象徴主義の絵画に、ギリシャ神話や、ポーランドの歴史、民話の題材を取り入れ、自分自身を、たびたび画面に登場させたことで、知られます。
日本語版ウィキペディアによれば、1890年頃から、ミューズのマリア・バルらをモデルに、象徴主義的な絵画に取り組みました。
見どころ|頭巾の女と鎌

画面の右側では、赤茶色の頭巾をかぶった若い女が、体を、左へ傾けて、立っています。顔は、淡い緑がかった色で、目を伏せ、横顔を見せています。胸元には、白い襟と、模様のある縁取りが見え、袖は、淡い黄色や緑の混じる、ゆったりとした布です。
女は、右手で、長い柄の大きな鎌を握り、画面の上へ、黒い刃が、大きな弧を描いています。もう一方の手は、画面の中央へ伸び、老人の目の上に、そっと置かれています。
エクレクティック・ライトは、この絵で、死の肌が、腐りかけた遺体の、恐ろしい緑色になり、彼女が、画家自身の姿をした人物の、まぶたを閉じていると述べています。
見どころ|老人
画面の左下では、白髪と、灰色の髭の老人が、顔を上げて、目を閉じています。彼は、胸の前で、両手を組み、首からは、緑色の小さな飾りのついた、細い鎖が下がっています。顔の皮膚には、深いしわが刻まれ、肩は、白い布で覆われています。
エクレクティック・ライトが、「画家自身」と呼ぶこの人物は、マルチェフスキが、しばしば自画像として、自分を描いたことと、関連づけられます。ただし、この人物が、実際に画家自身かどうかは、資料からは確認できていません。
見どころ|背景の農家
背景には、藁ぶき屋根の、低い農家と、木が見え、庭には、白い鳥(ガチョウのようなもの)が、たくさん並んでいます。空は、暗い青で、夜に近い夕暮れの光を思わせます。手前の、橙色の穂の畑が、老人の背後に広がります。穏やかな農村の光景が、画面の中心の、死との出会いを、いっそう静かに見せています。
「死」の連作
エクレクティック・ライトによれば、マルチェフスキは、世紀の変わり目の頃、「死」の主題を、繰り返し描きました。最初は、《タナトス》(1898〜99年)で、死は、ギリシャ神話の神を、若い女として描き直したものです。彼女は、鎌を持ち、赤い薄衣をまとって、窓辺で怯える老人を見つめます。続く《タナトスII》(1899年)では、月光のなか、羽根を持った姿で現れます。そして、1902年の本作で、農村の昼とも夜ともつかない光のなかで、人間の姿をして、画家のそばに立ちます。
まとめ
《死》は、死を、恐ろしい怪物でなく、静かな、人間の姿をした訪問者として描いた作品です。目を覆う手つきの優しさと、老人の安らいだ表情。死を受け入れる、という主題が、穏やかな農村の風景のなかで、深い静けさをもって、描かれています。
