《ボア・ダムールの水車小屋の水浴》(1886年)は、ポール・ゴーギャンが、ブルターニュのポン=タヴァンで初めて夏を過ごした年に描いた油彩画です。陽のあたる黄色い川岸で、裸の少年たちが、体を拭いたり、草のなかを覗き込んだり、水辺へ向かったりしています。奥には、石造りの水車小屋が、緑の木々に囲まれて見えます。のちにタヒチへ向かう画家の、まだ印象派の筆づかいを残した、穏やかな初期の作品です。
基本情報
作者はポール・ゴーギャン(1848〜1903)、制作年は1886年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは縦60.0×横73.0cm。広島のひろしま美術館に所蔵されています。原題は「La Baignade au moulin du Bois d’Amour」で、「ブルターニュの少年の水浴(愛の森の水車小屋の水浴、ポン=タヴェン)」とも訳されます。
制作背景|初めてのポン=タヴァン
ゴーギャンが、ブルターニュの小さな村ポン=タヴァンを初めて訪れたのは、1886年の7月です。当時のポン=タヴァンは、アヴェン川沿いに水車が並ぶ、静かな村で、1860年代から、アメリカ人をはじめとする画家たちが集まっていました。ゴーギャンは、この年の夏から秋にかけて、村に滞在し、周囲の風景や農民、水辺の少年たちを描いています。
題名にある「ボワ(ボア)・ダムール」は、「愛の森」の意味で、ポン=タヴァン郊外の、アヴェン川沿いの森をさします。のちに、ポン=タヴァン派の画家たちが好んで描いた場所です。
見どころ|黄色い川岸と少年たち

画面の下半分を占めるのは、強い光を浴びた、黄色から橙色の川岸です。その上に、裸の少年たちが、思い思いの姿で散らばっています。
左の手前には、赤みのある短い髪の少年が、地面に膝をついて座り、草のなかに何かを見つけたのか、うつむいて手を伸ばしています。中央では、二人の少年が、肩に白い布をかけ、体を拭いたり、衣服を整えたりしています。右の奥の水辺には、前かがみになって、水のなかへ入ろうとする少年が見えます。右の端には、黄色い帽子をかぶった二人の少女が、並んで座り、さらにその手前では、黒い帽子の人物が、身をかがめています。足もとには、脱ぎ捨てられた衣服が、積み重なっています。
少年たちは、互いに視線を合わせず、それぞれの動作に没頭しています。ある解説は、女の子がそばにいるのに、少年たちは気にせず着替えており、田舎の少年の、素朴な一瞬が捉えられていると述べています。
見どころ|水車小屋と水の流れ
画面の左には、白い泡を立てて落ちる水の流れが、堰のように描かれています。その手前に、緑の草が茂り、奥の左上には、石造りの建物と、暗い穴のような開口部が見えます。右側には、濃い緑の木々が茂り、その間から、橙色の屋根の水車小屋が、のぞいています。水面には、赤茶色の斑点が散り、木々や空の色を映しているようです。
全体の色調は、黄色、橙、緑を基調とし、赤の布が、画面の手前で、小さな差し色になっています。
筆づかいと画風
この作品の筆づかいは、短い筆触を重ねる、印象派に近いものです。ある解説は、印象派の手法で描かれており、茶色と黄色の置き方が、この時期のゴーギャンの特徴だと述べています。後年の、太い輪郭線と平らな色面を用いた画風とは、異なる段階の作品です。
ゴーギャンは、この年の夏、第8回印象派展で見た、ピサロやドガの手法に倣って、ヌードのパステル画も描いたと伝えられます。水辺の少年たちという主題は、のちにも繰り返され、1888年には、同じ主題の大作《ブルターニュの若い水浴者》(ハンブルク美術館)が描かれます。オルセー美術館は、その習作の素描について、最初の素描は1886年の最初の滞在中に描かれた可能性が高いと解説しています。
展覧会での紹介
本作は、1993年に京都国立近代美術館などで開かれた「ゴーギャンとポン=タヴァン派展」に、《ポン=ダヴァンで水浴する少年たち》の題で出品されたほか、2015年の「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展」(パナソニック汐留ミュージアム)、2016年の「ゴッホとゴーギャン展」(東京都美術館)にも出品されています。
まとめ
《ボア・ダムールの水車小屋の水浴》は、ゴーギャンが、まだ印象派の光と色のなかにいた時期に、ブルターニュの少年たちの日常を描いた作品です。のちの大胆な画風の前に、この穏やかな川岸の光景があったことを、伝えています。


