シンシナティ美術館に、日本の工芸品が並ぶ棚をのぞき込む2人の若い女性を描いた油彩画がある。《日本の品々を眺める娘たち(仏:Jeunes femmes regardant des objets japonais)》と題されたこの作品は、フランス出身の画家ジェームズ・ティソが1869年に手がけたもので、当時ヨーロッパを席巻し始めていた日本趣味への熱狂を、身近な情景として切り取った1枚だ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ジェームズ・ティソ(1836〜1902) |
| 制作年 | 1869年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 70.5×50.2cm |
| 所蔵 | シンシナティ美術館(オハイオ州) |
パリで名を上げた画家の初期作
ティソはフランス生まれで、本名をジェームズ・ジャック・ジョゼフ・ティソといったが、後にロンドンへ移り住んだ際、より英語風に響く名前へと改めている。ロンドンへ渡る前のこの時期、彼はすでにパリの社交界において、風俗画の描き手として成功を収めていた。本作は、まさにそうした初期の画業のなかで生まれた1枚だ。
富の象徴としての日本の品々
19世紀半ば、日本の開国とともに流れ込んできた美術品や工芸品は、ヨーロッパの富裕層のあいだで大きな熱狂を呼んでいた。こうした品々を自宅に飾ることは、単なる趣味を超えて、洗練された教養と社会的地位を示す1つの手段でもあった。本作に描かれた2人の女性の姿は、まさにこの時代の空気をそのまま映し出している。
見どころ

見入るように棚をのぞき込む白い衣の女性
画面奥には、白いドレスをまとった女性が、棚に並ぶ品々をじっと見つめている。その静かな集中の表情が、この場面全体に落ち着いた雰囲気を添えている。
前のめりに興味を示す赤い衣の女性
手前には、毛皮の縁取りが施された深い赤のドレスをまとった女性が、体を大きく前に傾けて品々をのぞき込んでいる。その積極的な姿勢が、白い衣の女性との対比を際立たせている。
緻密に描き込まれた日本の工芸品
棚の上には、精巧な装飾を持つ日本の工芸品が並び、その下には模様入りの布が敷かれている。こうした細部への丹念な描き込みが、当時のヨーロッパ人が日本の品々にどれほど強い関心を寄せていたかを物語っている。
鑑賞者を覗き見る立場に置く非対称な構図
画面の構図は意図的に非対称に組まれており、1人の女性は背を向け、もう1人はかろうじて横顔だけが見える。この構成によって、鑑賞者はあたかも2人の私的なやり取りをそっと覗き見ているかのような感覚に置かれる。
実際に見るには
本作はシンシナティ美術館に所蔵されている。ティソが後年ロンドンで手がけることになる、当世風の女性たちを描いた作品群とあわせて見ることで、彼が異国趣味や当時の流行をどのように捉え続けていたかがうかがえる。
FAQ
Q. 《日本の品々を眺める娘たち》はどこで見られますか?
シンシナティ美術館に所蔵されている。
Q. なぜ日本の品々が主題に選ばれたのですか?
19世紀半ばのヨーロッパで広まっていた日本趣味(ジャポニスム)への熱狂を反映したものとされている。
Q. 2人の女性は誰ですか?
特定の人物は分かっておらず、当時の富裕層の女性たちを一般化して描いたものと考えられる。
Q. なぜ構図が非対称なのですか?
1人を背中側から、もう1人を横顔で描くことで、鑑賞者を親密な場面の傍観者のような立場に置く効果を狙ったのではないかと解釈されている。
Q. ティソはどんな画家でしたか?
パリで風俗画家として成功を収めた後、ロンドンへ移住し、名を英語風に改めて活動を続けたフランス出身の画家である。
まとめ
《日本の品々を眺める娘たち》は、開国したばかりの日本の工芸品に夢中になる、19世紀ヨーロッパの富裕層の姿をそのまま切り取った1枚だ。棚をのぞき込む2人の対照的な姿勢を見つめていると、異国への憧れというものが、当時どれほど身近で切実な熱狂だったのかが伝わってくる。
