赤い風船とは|クレーが幾何学の街に浮かべた1つの円

ニューヨークのグッゲンハイム美術館に、抽象化された街並みのなかに、完璧な円を描く1つの赤い風船が浮かぶ小さな油彩画がある。《赤い風船(独:Roter Ballon)》と題されたこの作品は、スイス生まれの画家パウル・クレーが1922年に手がけたものだ。

基本情報

項目内容
作者パウル・クレー(1879〜1940)
制作年1922年
技法・素材油彩(および油彩転写)・石膏地の粗布・板に張り付け
サイズ31.7×31.1cm
所蔵ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)

バウハウス在職中の1枚

本作は、クレーがバウハウスの教員としてヴァイマルおよびデッサウでおよそ10年にわたり教鞭を執っていた時期に描かれた1枚だ。彼は青騎士(デア・ブラウエ・ライター)、ヨーロッパのダダイスム、シュルレアリストたち、そしてバウハウスの教員陣と、実に多様な芸術運動から受け入れられた画家だった。しかし多くの追随者が彼の様式を模倣しようと試みたにもかかわらず、クレーの作品を他の誰かの作品と見間違えることはほとんど不可能だとされている。それほどまでに、彼の絵画言語は独自のものだった。

見どころ

完璧な円として描かれた赤い風船

画面上部には、鮮やかな赤で塗られた完璧な円形の風船が浮かんでいる。周囲を取り囲む幾何学的な形態のなかで、この滑らかな円だけが際立って異質な存在感を放っている。

キュビスムを思わせる街並みの断片

風船の下には、家屋や屋根、窓を思わせる多角形の色面が組み合わさり、抽象化された街の情景を作り出している。この構成には、キュビスムの空間把握からの影響が指摘されている。

素朴な色彩の重なり

黄色や緑、赤、黒といった色面が、控えめな輪郭線によって区切られながら並んでいる。派手さを抑えたこの色使いが、画面全体に落ち着いた、どこか郷愁を誘う雰囲気を与えている。

構図が先にあり、物語は後からついてくる

クレーの制作においては、多くの場合、色や線の実験的な配置がまず先にあり、そこから何かの情景を思わせる連想が後から生まれてくるとされている。本作もまた、幾何学的な色面の集合体でありながら、見る者の目には自然と親しみやすい街の風景として映る、そうした彼の制作手法をよく表している。

実際に見るには

本作はニューヨークのグッゲンハイム美術館に所蔵されている。1948年、収集家カール・ニーレンドルフの遺産からの購入によって同館のコレクションに加わった。クレーが同時期に手がけた《城と太陽》など、似た構成を持つ作品とあわせて見ることで、彼が幾何学的な抽象とどこか懐かしい情景描写をどう両立させていたかがうかがえる。

FAQ

Q. 《赤い風船》はどこで見られますか?
ニューヨークのグッゲンハイム美術館に所蔵されている。

Q. この絵はいつ、どこで描かれましたか?
1922年、クレーがバウハウスの教員として在職していた時期に制作された。

Q. なぜ風船と街並みが組み合わされているのですか?
明確な説明は残されていないが、幼さや無邪気さを思わせる風船と、構造化された都市とのあいだの対比を暗示しているのではないかと解釈されている。

Q. この絵はどんな様式に分類されますか?
キュビスムの影響を受けた幾何学的抽象と、都市風景という具象的な主題とを融合させた、クレー独自の様式に位置づけられる。

Q. クレーはどんな画家でしたか?
青騎士やバウハウスなど複数の芸術運動と関わりながらも、誰にも模倣しがたい独自の絵画言語を築いた画家である。

まとめ

《赤い風船》は、幾何学的な色面の集合体でありながら、見る者の目にはごく自然に街の情景として映ってしまう、クレーらしい仕掛けに満ちた1枚だ。完璧な円を描くこの風船を眺めていると、抽象と具象のあいだにある境界線は、思っているよりずっと曖昧なのだと気づかされる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!