《女占い師》とは|ラ・トゥールが描いた巧妙なすり

《女占い師(英:The Fortune Teller)》は、フランス・バロックの画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールが1630年ごろに手がけた油彩画で、現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている。一見すると身なりの良い若者が占いを受けている、ただそれだけの場面に見えるこの絵には、実は巧妙な仕掛けが隠されている。今回はこの絵に描かれた「事件」の中身と、20世紀に巻き起こったスキャンダラスな真贋論争について見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593〜1652)
制作年1630年ごろ
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約102×123.5cm
所蔵メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
署名画面右上に「G. de La Tour Fecit Luneuilla Lothar」

一言でいうと

占いに気を取られている裕福な若者の周りで、女性たちがそれぞれ違うやり方で彼の財布と首飾りを狙っている。一枚の絵の中で同時進行するすりの現場を、静かな筆致で描き切った作品。

制作背景

カラヴァッジョ由来の主題を独自に

「老いた占い師が若者の運勢を占いながら、その仲間たちがすきを見て彼から金品を奪う」という主題は、北欧の版画やローマのカラヴァッジョによって広められた、当時よく知られたモチーフだった。この絵にもその系譜が受け継がれているが、画面右上に記された「ジョルジュ・ド・ラ・トゥールがロレーヌ地方リュネヴィルで制作した」という署名から、彼がカラヴァッジョの先例とは独立してこの主題に取り組んでいた可能性も指摘されている。

20世紀に発見された知られざる傑作

この絵が世に知られるようになったのは比較的最近のことで、発見は1960年ごろとされている。当初は競売でジョルジュ・ヴィルデンシュタインという画商が1949年に750万フランで落札し、10年ほど手元に置いたのち、1960年にメトロポリタン美術館が「非常に高額」とだけ伝えられる金額で購入した。フランスの傑作がなぜルーヴルではなくアメリカの美術館に渡ったのかは当時のフランスで物議を醸し、文化大臣であった作家アンドレ・マルローが国民議会でその経緯を説明する事態にまで発展したという。

真贋をめぐる論争

この絵は購入当初から、その真贋についてたびたび疑問を呈されてきた。イギリスの美術史家クリストファー・ライトをはじめとする研究者から異論が出された時期もあり、1982年にはアメリカの放送局が絵の真贋に関する報道をめぐって美術館側との対立にまで発展したこともある。もっとも劇的な逸話としては、左から2番目の女性の襟のレース飾りのなかに「MERDE(くそ)」というフランス語が読み取れるという指摘があり、これは近年の修復者によるいたずら書きだったとして1982年に除去されたと伝えられている。こうした論争を経ながらも、現在この絵はラ・トゥールの真作として広く受け入れられている。

見どころ

占いに没頭する若者

画面中央、身なりの良い若者が老いた女占い師と向き合っている。彼の視線は占い師に釘付けで、右手はちょうど彼女に謝礼を手渡そうとしているところだ。その油断こそが、この絵の物語の起点になっている。

財布を狙う手

画面左端に立つ女性の手元をよく見ると、若者の腰のあたりにある財布へとそっと伸びている。彼が占いに気を取られている隙をついた、この絵に描かれた最初の「犯行」だ。

首飾りを切り取ろうとする手

もう一つの見どころは、占い師と若者のあいだに立つ、落ち着いた装いの女性の手元にある。彼女は若者の肩から下がる金のメダリオンの鎖に、はさみのようなものを当てている。占いという表向きの場面の裏で、静かに進行するもう一つのすりの現場がここに描かれている。

演劇的な人物配置

登場人物たちの視線や手の動きが、見た目には静かでありながら、実は複雑に絡み合った物語を紡いでいる。単なる肖像群像ではなく、一瞬の緊張感をはらんだ劇的な場面として構成されている点が、この絵の際立った特徴だ。

実際に見るには

本作はニューヨークのメトロポリタン美術館のヨーロッパ絵画展示室に所蔵されている。同じ主題を扱ったラ・トゥールの後年の作品「クラブのエースを使ったいかさま師」はフォートワースのキンベル美術館にあり、あわせて見ることで、彼が繰り返し取り組んだ「だまし」の主題の展開をたどることができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「単なる占いの場面」として鑑賞されがちだが、実際には周囲の人物たちによる2つの盗みが同時に進行している、緊張感に満ちた物語画である。また真贋論争や隠し文字の逸話ばかりが話題になりがちだが、それらは絵そのものの評価を揺るがすものではなく、現在も美術館の代表的な所蔵品として展示され続けている。

FAQ

Q. 《女占い師》はどこで見られますか?
ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている。

Q. この絵にはどんな物語が描かれていますか?
占いに気を取られる若者から、周囲の女性たちが財布と首飾りをそれぞれ盗み取ろうとしている場面が描かれている。

Q. なぜこの絵はルーヴルではなくメトロポリタン美術館にあるのですか?
1949年に画商が競売で落札したのち、1960年にメトロポリタン美術館が購入したためで、当時フランス国内でこの経緯が問題視された。

Q. この絵の真贋が疑われたことはあるのですか?
はい。複数の研究者から疑問が呈された時期があったが、現在ではラ・トゥールの真作として広く受け入れられている。

Q. 「MERDE」という隠し文字の話は本当ですか?
レースの襟の部分にそう読み取れる文字があるとされ、後世の修復者によるいたずらとして1982年に除去されたと伝えられている。

まとめ

《女占い師》は、静かな占いの場面の裏側で、同時進行する2つの盗みを描き切った緊張感あふれる一枚だ。発見の経緯や真贋論争といった数奇な来歴も含めて、この絵は今もなお多くの謎を残しながらメトロポリタン美術館の壁に掛かり続けている。

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