《レモン、オレンジ、バラのある静物》とは|スルバランが唯一署名した静物画

《レモン、オレンジ、バラのある静物(英:Still Life with Lemons, Oranges and a Rose)》は、スペイン・バロックの画家フランシスコ・デ・スルバランが1633年に手がけた油彩画で、現在はカリフォルニア州パサデナのノートン・サイモン美術館に所蔵されている。レモンの盛られた皿、オレンジの入った籠、水の入ったカップと1輪のバラ。ただそれだけの静物画でありながら、この絵にはスルバランという画家の生涯でただ一度きりの署名が残されている。今回はその特別な理由と、画面に込められた象徴の読み解きについて見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者フランシスコ・デ・スルバラン(1598〜1664)
制作年1633年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約62.2×107cm
所蔵ノートン・サイモン美術館(パサデナ、カリフォルニア州)

一言でいうと

レモン、オレンジ、バラという3つの品を等間隔に並べただけの絵が、まるで祭壇画のような静けさと厳粛さをたたえてしまう。それがスルバランのこの静物画だ。

制作背景

唯一の署名入り静物画

スルバランは聖人や聖母の生涯を描いた宗教画を数多く手がけた画家として知られているが、静物画もまた好んで取り組んだ主題の一つだった。ただしこの絵だけは特別で、彼が自ら署名と制作年を書き記した唯一の静物画とされている。数ある静物画のなかでこの一枚だけに署名を残したという事実そのものが、当時から特別な意味合いを持つ作品として扱われていたことをうかがわせる。

修道院か礼拝のための一枚か

近年の研究では、この絵がより小さな構図の対作、ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵される「水のカップとバラ」を先に描いたうえで、こちらのより大きな作品を、修道院や女子修道院の食堂といった場に向けて制作したのではないかという見方も示されている。果物という主題が、そうした場にふさわしい静かな瞑想の対象になり得たという解釈だ。

見どころ

三分割された画面構成

画面には、4つのシトロンを盛った銀の皿、オレンジと花の枝が入った籠、そして水のカップとバラを乗せた皿という3つのグループが、互いに等間隔を保つように配置されている。それぞれのグループがピラミッド状にまとまりながら幾何学的な均衡を作り出しており、視線は左端のレモンの先端から、花咲くオレンジの枝を経て、右端のバラへと自然に導かれていく。

三位一体を思わせる構成

3つの品物という数の一致から、この絵はしばしばキリスト教の三位一体になぞらえて解釈されてきた。さらに個々のモチーフにも意味が込められているとされ、とげのないバラは聖母マリアの無原罪の御宿りを、オレンジとその花は聖母の純潔を、そして澄んだ水は清らかさをそれぞれ象徴しているという読み方が広く知られている。

闇に浮かぶ果物の質感

漆黒に近い背景から浮かび上がるように、レモンのざらついた皮の質感やオレンジの葉の織りなす陰影が緻密に描き込まれている。銀の皿の反射やカップの白い輝きとも呼応しながら、光と影のリズムが画面全体に静かな緊張感を生み出している。

修復によってよみがえった本来の色調

この絵は2008年、元コンサベーション部門責任者によって大がかりな修復を受けている。変色したニスや過去の加筆を取り除く作業のなかで、レモンとオレンジのあいだに元々描かれていた菓子を盛った銀盆をスルバラン自身が塗りつぶしていたことも判明した。修復によって、テーブルの縁や四隅の装飾、そして果物の粗い質感といったスルバランならではの描写が、本来の姿を取り戻したという。

実際に見るには

本作はカリフォルニア州パサデナのノートン・サイモン美術館に所蔵されている。より小さな対作とされる「水のカップとバラ」はロンドンのナショナル・ギャラリーにあり、あわせて見ることでスルバランがこの主題にどう向き合っていたかをより深く知ることができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「果物と花を描いただけの装飾的な静物画」として片付けられがちだが、17世紀スペインの対抗宗教改革の空気のなかで制作された作品であり、静けさの奥に宗教的な意味を織り込んだ、いわば小さな祭壇画のような性格を持っている。

FAQ

Q. 《レモン、オレンジ、バラのある静物》はどこで見られますか?
カリフォルニア州パサデナのノートン・サイモン美術館に所蔵されている。

Q. なぜこの絵だけスルバランの署名が残っているのですか?
理由ははっきりしていないが、彼の静物画のなかでこの一枚だけに署名と制作年が記されており、特別な位置づけの作品だったと考えられている。

Q. 3つのモチーフにはどんな意味がありますか?
バラは聖母の無原罪の御宿り、オレンジと花は聖母の純潔、水は清らかさを象徴すると解釈されており、全体として三位一体になぞらえられることもある。

Q. この絵はいつ、どのように修復されたのですか?
2008年に大がかりな修復が行われ、変色したニスや過去の加筆が取り除かれ、当初の色調と描写が復元された。

Q. 対になる作品はあるのですか?
ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵される、より小さな構図の「水のカップとバラ」が対作とされている。

まとめ

《レモン、オレンジ、バラのある静物》は、ただの果物と花を描いただけに見えて、静けさのなかに宗教的な意味を静かに織り込んだ一枚だ。スルバランがこの絵だけに署名を残した理由は明かされていないが、それこそがこの作品を特別なものにしている。

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