《正しい裁判官たち》とは|ヘントの祭壇画の盗まれたパネルを徹底解説

《正しい裁判官たち》(英:The Just Judges)は、フランドルの画家フーベルト・ファン・エイクとヤン・ファン・エイクの兄弟によって1432年に完成した『ヘントの祭壇画』を構成する1枚のパネルです。馬に乗った人々が神秘の子羊を礼拝しに向かう場面を描いたこの絵は、1934年に盗まれて以来、今日に至るまで行方が分かっていません。現在シント・バーフ大聖堂で見ることができるのは、後年に描かれた模写にすぎません。この記事では、この祭壇画全体がどれほど数奇な運命をたどってきたのか、そしてこのパネルがなぜ今も見つかっていないのかを見ていきます。

目次

《正しい裁判官たち》とは — 基本情報

項目内容
作者フーベルト・ファン・エイク、ヤン・ファン・エイク
制作年1432年(『ヘントの祭壇画』完成年)
技法・素材油彩・板(祭壇画の一部)
本来の所蔵先シント・バーフ大聖堂(ヘント、ベルギー)
現状1934年に盗難、現在も行方不明。現在は模写を展示

一言でいうと

《正しい裁判官たち》は、北方ルネサンス絵画の最高傑作『ヘントの祭壇画』を構成する1枚のパネルでありながら、1934年に何者かによって盗み出され、今なお本物の所在が分からないままになっている作品です。現在大聖堂に飾られているのは、後年制作された精巧な模写にすぎません。

制作背景 — なぜこの絵は生まれたのか

北方ルネサンスを代表する祭壇画

『ヘントの祭壇画』は縦約3.4m×横約4.6mにも及ぶ大画面で、全12枚のパネルから構成される多翼祭壇画です。中央下段には「神秘の子羊の礼拝」の場面が描かれ、その周囲を預言者や聖人、天使たちの姿が取り囲んでいます。油彩技法を駆使した緻密な描写と、透視図法や空気遠近法を用いた革新的な表現は、画家アルブレヒト・デューラーからも「もっとも貴重な絵画」と称賛されるほど高く評価されてきました。

「正しい裁判官たち」が描く場面

《正しい裁判官たち》は、祭壇画の左下段を飾る外翼パネルの1枚です。馬にまたがった人々が険しい岩場を進み、遠くに見える神秘の子羊を礼拝するために向かっていく様子が描かれています。祭壇画全体のなかでは比較的目立たない位置にありながら、緻密な人物描写と馬の描写は、他のパネルにも劣らぬ完成度を誇っています。

事件 — 1934年の盗難とその後

忽然と消えた2枚のパネル

1934年4月10日から11日にかけての夜、シント・バーフ大聖堂から《正しい裁判官たち》ともう1枚の《洗礼者ヨハネ》のパネルが盗み出されました。ヘントの司教のもとには犯人から100万ベルギー・フランの身代金要求が届いています。しかし同年11月25日、隠し場所を知る唯一の人物とされる株式仲買人アルセーヌ・ヘデルティエが急死し、その秘密は墓の中へと持ち去られてしまいました。《洗礼者ヨハネ》のパネルはその後回収されましたが、《正しい裁判官たち》は今日に至るまで発見されておらず、既に破壊されてしまったのではないかとも考えられています。

「史上もっとも盗まれた美術品」

『ヘントの祭壇画』は、この1934年の事件以外にも幾度となく略奪や破壊の危機に見舞われてきました。宗教改革時の聖像破壊運動で破壊されかけたほか、パネルが裁断されて売却されたこともあります。第一次世界大戦後にはドイツから賠償の一環としてパネルが返還され、いったんはすべてのパネルがそろいましたが、その直後にこの盗難事件が起きています。さらに第二次世界大戦中には、ヒトラーの命令によってナチス・ドイツに接収され、オーストリアの岩塩坑に隠されました。撤退するドイツ軍が他の美術品もろとも爆破しようとしたところを、内部告発者の密告によって連合軍が阻止し、辛くも難を逃れています。こうした波乱に満ちた歴史から、本作は「史上もっとも盗まれた美術品」とも呼ばれています。

現在展示されている模写

現在シント・バーフ大聖堂に飾られている《正しい裁判官たち》は、1939年から1945年にかけて画家ジェフ・ファン・デル・ヴェーケンによって制作された模写です。オリジナルの構図を忠実に再現しながらも、本物ではないという事実自体が、この祭壇画がたどってきた波乱の歴史を静かに物語る展示になっています。

実際に見るには

『ヘントの祭壇画』はベルギー・ヘントのシント・バーフ大聖堂で公開されています。《正しい裁判官たち》の部分は模写となっていますが、他の11枚のパネルは本物であり、緻密な油彩技法と鮮やかな色彩を間近で鑑賞することができます。

よくある誤解

本作はしばしば「単に紛失した1枚のパネル」として語られがちですが、実際には身代金要求から犯人の急死まで含む本格的な盗難事件の対象であり、90年近くを経た今もなお未解決のままです。また祭壇画全体についても、単なる中世の名画としてだけでなく、宗教改革や2度の世界大戦を通じて幾度も略奪や破壊の危機にさらされてきた、きわめて数奇な歴史を持つ作品として理解する必要があります。

FAQ

Q. 《正しい裁判官たち》はいつ盗まれましたか?
1934年4月10日から11日にかけての夜、《洗礼者ヨハネ》のパネルとともに盗まれました。

Q. 犯人は捕まりましたか?
株式仲買人アルセーヌ・ヘデルティエが唯一の容疑者として浮上しましたが、隠し場所を明かす前に急死し、事件は未解決のままです。

Q. 現在展示されているのは本物ですか?
本物ではありません。1939年から1945年にかけて画家ジェフ・ファン・デル・ヴェーケンが制作した模写が展示されています。

Q. 『ヘントの祭壇画』は他にどんな危機に見舞われましたか?
宗教改革時の聖像破壊運動やパネルの裁断・売却のほか、第二次世界大戦中にはナチス・ドイツに接収され、爆破されかける寸前まで追い込まれました。

Q. どこでこの祭壇画を見ることができますか?
ベルギー・ヘントのシント・バーフ大聖堂で公開されています。

まとめ

《正しい裁判官たち》は、北方ルネサンス絵画の最高傑作の一部でありながら、90年近くにわたって行方が分からないままになっているパネルです。現在展示されている模写を前にすることは、この祭壇画がくぐり抜けてきた略奪と盗難、そして戦火の歴史そのものを静かに見つめ直す機会になります。

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