《鳥の創造》とは|バロが描いた錬金術的な創造の場面を徹底解説

《鳥の創造》(西:La Creación de las Aves)は、スペイン生まれのメキシコの画家レメディオス・バロが1957年に手がけた油彩画で、現在はメキシコシティの近代美術館に所蔵されています。梟の頭を持つ画家が夜のアトリエで鳥を描き、星の光を浴びせるとその鳥が紙から抜け出して飛び去っていくというこの作品は、芸術と科学と魔術が渾然一体となったバロの世界観を凝縮した一枚として、彼女の代表作に数えられています。この記事では、この不思議な創造の場面に込められた装置と道具の意味を見ていきます。

目次

《鳥の創造》とは — 基本情報

項目内容
作者レメディオス・バロ(1908〜1963)
制作年1957年
技法・素材油彩・板
所蔵近代美術館(メキシコシティ)
様式シュルレアリスム

一言でいうと

《鳥の創造》は、宇宙の光と芸術家自身の感情を素材として結びつけ、絵を実際の生命へと変えてしまう錬金術的な創造の瞬間を描いた作品です。科学の装置と魔術的な変容が違和感なく同居する画面には、バロが生涯かけて探求した思想がそのまま結晶しています。

制作背景 — なぜこの絵は生まれたのか

神秘主義と錬金術への傾倒

バロは、西洋・非西洋を問わず幅広い神秘主義と錬金術の伝統から影響を受けた画家です。心理学者カール・グスタフ・ユングやグルジエフ、ウスペンスキー、ブラヴァツキー夫人、マイスター・エックハルト、さらにスーフィズムの理論にまで関心を寄せ、聖杯伝説や神聖幾何学、易経といった多様な思想体系のなかに、自己認識と意識の変容への手がかりを見出そうとしていました。本作にもこうした関心が色濃く反映されています。

パリからメキシコへ

スペインの王立サン・フェルナンド美術アカデミーで学んだバロは、スペイン内戦の勃発を機にマドリードからパリへと移り、シュルレアリスム運動と深く関わるようになります。詩人ベンジャマン・ペレと結婚したのち、ナチス占領下のフランスを逃れて1941年にメキシコシティへ亡命し、以後生涯をこの地で過ごしました。本作は、こうしたメキシコ時代に彼女の作風が円熟していくなかで生まれた作品です。

見どころ徹底解説

叡智を象徴する梟の画家

画面中央には、梟の頭を持つ擬人化された人物が机に向かい、紙に鳥を描いている姿が描かれています。古代ギリシア神話において梟は女神アテナの聖鳥とされ、叡智の象徴と見なされてきました。この梟の姿を借りることで、描かれた人物には賢者であり創造者であるというイメージが重ね合わされています。

心臓とつながる絵筆

画家が右手に握る絵筆は、首から下げたヴァイオリンと白い弦で結びつけられています。このヴァイオリンは、いわば画家の「心臓」として機能しており、絵筆を通じて紙に生み出される鳥には、単なる技術ではなく画家自身の感情や生命そのものが注ぎ込まれていることが示唆されています。

星の光を集めるレンズ

画家が左手に持つ三角形の凸レンズは、窓から差し込む星の光を集める役割を果たしています。描かれた鳥の絵にこの光が当てられると、鳥は紙の上で実体化し、飛び立とうとします。芸術という営みが、宇宙的な光の力によって初めて完成するという、詩的な仕掛けがここに込められています。

錬金術を思わせる不思議な装置

アトリエの左側には、卵を2つつなげたような奇妙な形状の器具が置かれています。これは窓の外から星屑を回収し、ガラス管を通してパレットへと絵具を抽出する蒸留装置と考えられています。透明な容器のなかで起きている現象そのものは謎に包まれたままですが、こうしたガラス器具の存在が、この場面全体に錬金術的な神秘性を与えています。

実際に見るには

本作はメキシコシティの近代美術館に所蔵されています。日本では1999年、神奈川県立近代美術館などでバロの回顧展が開催され、本作を含む代表作60点あまりがまとめて紹介されました。バロの作品はオレンジ色を基調とした穏やかな色調と繊細な筆致で知られており、実際に間近で見ることで、複製画像では伝わりにくい緻密な質感を確認できます。

よくある誤解

本作はしばしば「単なる幻想的なファンタジー絵画」として片づけられがちですが、実際にはバロ自身が生涯をかけて探求した錬金術や神秘思想の体系が、緻密な図像として組み込まれています。梟や星の光、蒸留装置といった一つひとつの要素には明確な象徴的役割があり、単なる夢想の産物ではなく、彼女の思想そのものを視覚化した作品として鑑賞することが求められます。

FAQ

Q. 梟の頭を持つ人物には何の意味がありますか?
古代ギリシア神話において梟は女神アテナの聖鳥であり叡智の象徴とされ、賢者や創造者のイメージが重ねられています。

Q. 絵筆とヴァイオリンがつながっているのはなぜですか?
ヴァイオリンが画家の「心臓」として機能し、絵筆を通じて描かれる鳥に画家自身の感情や生命が注ぎ込まれることを示しています。

Q. なぜ描かれた鳥は紙から抜け出すのですか?
画家が三角形のレンズで集めた星の光を紙に当てることで、鳥が実体化し飛び立とうとする様子が描かれています。

Q. 奇妙なガラス器具にはどんな役割がありますか?
星屑を回収し絵具として抽出する蒸留装置と考えられ、錬金術的な神秘性を場面に加えています。

Q. バロはどのような経歴を持つ画家ですか?
スペイン生まれで、パリでシュルレアリスム運動に参加したのち、ナチス占領を逃れて1941年にメキシコへ亡命し、生涯をこの地で過ごしました。

まとめ

《鳥の創造》は、星の光と芸術家自身の感情という2つの素材を融合させ、絵画を生命そのものへと変える創造の瞬間をとらえた作品です。梟の賢者、心臓とつながる絵筆、錬金術の器具という一つひとつの仕掛けが折り重なることで、バロが生涯を通じて追い求めた神秘思想の世界が一枚の画面に立ち上がっています。

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