《雷雲のある麦畑》とは|ゴッホ最晩年の連作を徹底解説

《雷雲のある麦畑》(別名:荒れ模様の空の麦畑)は、オランダの画家フィンセント・ファン・ゴッホが1890年7月、フランス北部のオーヴェル=シュル=オワーズで手がけた油彩画で、現在はアムステルダムのファン・ゴッホ美術館に所蔵されています。重く垂れ込める雷雲の下に広がる麦畑を描いたこの作品は、ゴッホが亡くなる直前のわずか数週間に集中して手がけた、横長の大画面による連作の1点です。この記事では、この絵がどのような形式で描かれ、同時期に生まれた他の麦畑の絵とどう関わっているのかを見ていきます。

目次

《雷雲のある麦畑》とは — 基本情報

項目内容
作者フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)
制作年1890年7月(オーヴェル=シュル=オワーズ)
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約50×100cm(倍の正方形の画面)
所蔵ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
カタログ番号F778

一言でいうと

《雷雲のある麦畑》は、荒れ模様の暗い空と、風にざわめく麦畑という自然の力強さを、横に大きく引き伸ばされた画面いっぱいに描き出した作品です。鳥の姿が描かれていない点で、同時期に制作された『カラスのいる麦畑』とは異なる静けさをたたえています。

制作背景 — なぜこの絵は生まれたのか

オーヴェルでの最後の日々

ゴッホは1890年5月、サン=レミの療養所を退所し、画家仲間のピサロと親しい医師ポール・ガシェを頼って、パリ近郊のオーヴェル=シュル=オワーズに移り住みました。この地で過ごしたわずか2か月あまりのあいだに、ゴッホは50点の素描と74点の油彩画を制作しています。本作は、ゴッホが同年7月29日に亡くなる直前の時期に手がけられた作品の1つです。

「倍の正方形」という独自の画面形式

この時期のゴッホは、縦横比がおよそ1対2という横に長い「倍の正方形」の画面を用いた一連の作品に取り組んでいました。本作のほか、鳥が群れ飛ぶ様子を描いた『カラスのいる麦畑』や、雨雲が現れる『荒れ模様の空のオーヴェルの麦畑』、『オーヴェル近くの平野』などが、この同じ横長の画面形式による連作を構成しています。ゴッホはこの独自の形式を通じて、それまでの激しい筆致とは異なる、広々とした風景表現を試みていたと考えられています。

見どころ徹底解説

空を覆う重厚な雲の筆致

画面上部には、深い青を基調とした重々しい雲が、うねるような力強い筆致で描かれています。左上と手前には、白く盛り上がる入道雲のような雲塊も見られ、荒れ模様の天候が今にも訪れようとしている緊張感が伝わってきます。

鳥のいない静けさ

同じ連作のなかでも特によく知られる『カラスのいる麦畑』には、麦畑の上を舞う鳥の群れが描かれていますが、本作にはそうした鳥の姿は見られません。この違いによって、本作は同じ嵐の予感を扱いながらも、より純粋に空と大地の対比そのものに焦点を当てた作品になっています。

風にざわめく麦畑

画面下部には、緑と黄金色の麦が風に揺れる様子が、勢いのある筆致で描かれています。手前にはわずかに赤いケシの花も見られ、荒々しい空模様とは対照的な、地上の生命感を静かに伝えています。

「最後の作品」をめぐる解釈

ゴッホの最晩年に描かれたこれらの麦畑の連作は、しばしば画家の孤独や人生の終わりへの予感と結びつけて語られてきました。もっとも有名な『カラスのいる麦畑』は、長らく彼の絶筆と誤解されてきましたが、実際には死の20日以上前、7月上旬にはすでに完成していたことが分かっています。ファン・ゴッホ美術館の研究者のなかには、実際の最後の1点は別の作品ではないかと指摘する声もありますが、いずれにせよ、この時期の横長の麦畑の連作全体が、ゴッホの精神的な到達点を象徴する作品群として広く受け止められています。

実際に見るには

本作はオランダ・アムステルダムのファン・ゴッホ美術館に所蔵されています。同じ「倍の正方形」の形式による関連作品として、『カラスのいる麦畑』も同館に、『荒れ模様の空のオーヴェルの麦畑』はアメリカのカーネギー美術館に、『オーヴェル近くの平野』はドイツのノイエ・ピナコテークにそれぞれ所蔵されており、あわせて見比べることで、ゴッホが最晩年にこの横長の画面でどのような風景表現を追求していたかを知ることができます。

よくある誤解

本作はしばしば『カラスのいる麦畑』と混同されがちですが、実際には鳥の描写がなく、雨雲の表現に重点を置いた別の作品です。同じ時期に描かれた横長の麦畑の連作にはいくつものバリエーションがあり、それぞれ微妙に異なる主題や描写上の工夫が凝らされている点を踏まえて鑑賞する必要があります。

FAQ

Q. 《雷雲のある麦畑》はいつ描かれましたか?
1890年7月、ゴッホが亡くなる直前、フランスのオーヴェル=シュル=オワーズで描かれました。

Q. 『カラスのいる麦畑』とはどう違いますか?
本作には鳥の姿が描かれておらず、雨雲の表現により重点が置かれている点が異なります。

Q. なぜ横長の画面形式が使われているのですか?
この時期のゴッホが「倍の正方形」と呼ばれる独自の横長の画面形式に取り組み、広々とした風景表現を試みていたためです。

Q. 同じ連作の他の作品はどこにありますか?
『カラスのいる麦畑』はファン・ゴッホ美術館に、『荒れ模様の空のオーヴェルの麦畑』はカーネギー美術館に、『オーヴェル近くの平野』はノイエ・ピナコテークにそれぞれ所蔵されています。

Q. この絵はゴッホの死とどう関係していますか?
死の直前に制作された作品ですが、絶筆ではなく、その後にも他の作品が描かれていたことが分かっています。

まとめ

《雷雲のある麦畑》は、横長の独自な画面形式によって、荒れ模様の空と地上の麦畑という自然の対比を描き出した、ゴッホ最晩年の連作の1点です。同時期に生まれた他の麦畑の絵と見比べることで、この短い期間にゴッホがどれほど集中して自然の力強さと向き合い続けていたかが伝わってきます。

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