《橋の上の少女たち》は、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが1901年に手がけた油彩画で、現在はオスロ国立美術館に所蔵されています。3人の少女が橋の欄干に寄りかかり、水面を見つめる様子を描いたこの作品は、《叫び》と並んでムンクの作品のなかでもとりわけ高い人気を誇る一枚です。この記事では、この絵の舞台となった実在の場所と、ムンクの作風が一時的に見せた穏やかな変化を見ていきます。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | エドヴァルド・ムンク(1863〜1944) |
| 制作年 | 1901年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 136×125.5cm |
| 所蔵 | オスロ国立美術館(ノルウェー) |
| 舞台 | オースゴールストラン(ノルウェー) |
一言でいうと
《橋の上の少女たち》は、ムンクが夏を過ごした漁村の実在する橋を舞台に、3人の少女の後ろ姿を描いた作品です。彼の代表作に共通する不安や苦悩の気配がほとんど見られない、珍しく穏やかな心境がにじみ出た一枚といえます。
制作背景
オースゴールストランという特別な場所
オースゴールストランは、オスロから車で2時間ほど離れたフィヨルド沿いの小さな漁村です。ムンクは1880年代末からこの地を生涯にわたって繰り返し訪れ、《星月夜》をはじめとする数多くの代表作をここで生み出しました。彼の画業の主軸をなす連作「生命のフリーズ」も、この村を舞台に育まれています。詩的な題名を持つ本作ですが、実際にはオースゴールストランに実在した橋の風景を、そのまま題材にしたものです。
《叫び》と同じ橋、逆向きの視線
本作の舞台となった橋は、《叫び》に描かれた橋と同じ手すりの意匠を持つ場所だとされています。ただし《叫び》が港の方角を向いて描かれているのに対し、本作ではムンクは港に背を向け、逆方向の景色を選んで描いています。同じ場所でありながら、まったく異なる心情を映し出す舞台として使い分けられている点が興味深い部分です。
「生命のダンス」以降の穏やかな作風
連作「生命のフリーズ」の中核をなす《生命のダンス》を描いたのち、ムンクの作風には変化が見られるようになります。それまでの激しい苦悩や不安の表現がいくぶん後退し、穏やかな作品がいくつか生み出されるようになったのです。《橋の上の少女たち》は、そうした時期を代表する作品の一つに数えられています。
見どころ

水面を見つめる3人の後ろ姿
画面には、白・赤・緑のワンピースをまとった3人の少女が、橋の欄干にもたれて水面を覗き込む後ろ姿が描かれています。彼女たちが見つめる水面には対岸の木々が映り込み、その落ち着いた色彩と、少女たちの鮮やかな衣装とが対照的に浮かび上がっています。
静けさに満ちた背景
奥には大きな緑の木や白い家並み、緩やかに曲がる道が描かれ、青い夕暮れの空には黄色い満月が浮かんでいます。《叫び》に見られるような激しい不安の表現はここには見当たらず、代わりに静かで穏やかな時間の流れが感じられます。
見る者に委ねられた想像
少女たちは鑑賞者に背を向けたまま描かれており、その表情をうかがい知ることはできません。この匿名性が、かえって見知らぬ国への憧れや、無邪気な好奇心といった想像を鑑賞者のなかに呼び起こします。ムンクの作品らしい何らかの暗示が込められているのではという見方もありますが、少なくとも表面上は、屈託のない子どもたちの情景として描かれています。
実際に見るには
本作はノルウェー・オスロ国立美術館に所蔵されています。同じ主題を扱った作品はムンクが生涯にわたって繰り返し手がけており、油彩や版画による異なるバージョンが複数存在します。舞台となったオースゴールストランには、ムンクが実際に暮らした家が今も残されており、あわせて訪れることで作品の背景をより深く知ることができます。
よくある誤解
本作はしばしば「ムンクらしい不穏な雰囲気を持つ作品」として身構えて鑑賞されがちですが、実際には彼の画業のなかでも特に精神的に安定していた時期に生まれた、穏やかな一枚です。《叫び》と同じ橋を舞台にしていることから両者を結びつけて解釈されがちですが、視線の向きも心情の表現もまったく異なる作品として理解する必要があります。
FAQ
Q. 《橋の上の少女たち》はどこを舞台にしていますか?
ノルウェーの漁村オースゴールストランに実在した橋を舞台にしています。
Q. 《叫び》と関係がありますか?
同じ橋の手すりの意匠が使われているとされますが、本作は港とは逆方向を向いて描かれており、雰囲気もまったく異なります。
Q. なぜこの絵は穏やかな印象を与えるのですか?
連作「生命のフリーズ」の中核作《生命のダンス》を描いたのち、ムンクの作風が一時的に穏やかな方向へ変化した時期の作品だからです。
Q. 同じ主題の作品は他にもありますか?
19世紀末から晩年に至るまで、油彩や版画による数多くのバージョンが制作されています。
Q. 現在この絵はどこにありますか?
ノルウェー・オスロ国立美術館に所蔵されています。
まとめ
《橋の上の少女たち》は、ムンクが夏を過ごした漁村の実在する風景を舞台に、珍しく穏やかな心境を映し出した作品です。《叫び》と同じ橋でありながら、視線の向きを変えるだけでこれほど異なる情景が生まれるという事実が、ムンクという画家の奥行きを静かに物語っています。
