《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》とは|「何を聴いているのか」から生まれた傑作を徹底解説

《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》(1872年)は、スイスの象徴主義画家アルノルト・ベックリンによる自画像で、ベルリンのアルテ・ナショナルギャラリーが所蔵する作品です。制作中の画家の肩越しに、骸骨の死神がヴァイオリンを弾きながら忍び寄る、この不気味な光景は、友人たちのある何気ない一言から生まれたと伝えられています。

目次

基本情報

項目内容
作者アルノルト・ベックリン(1827〜1901)
制作年1872年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ75×61cm
所蔵アルテ・ナショナルギャラリー(ベルリン)
制作地ミュンヘン

一言でいうと
《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》は、通常の自画像が鏡の中の自分を見つめるのに対し、画家が何かに「耳を澄ませている」瞬間を捉えることで、死という存在が創作の傍らに常につきまとうという、深い精神性を表現した作品である。

制作背景

伝承によれば、ベックリンは当初この絵に死神を描き込んでいませんでした。友人たちが「何をそんなに熱心に聴いているのか」と尋ねたことをきっかけに、彼は自分の肩の上にヴァイオリンを弾く死神の姿を描き加えたと伝えられています。この絵は同年、ミュンヘン美術協会で初めて展示され、ベックリンが同地の美術界で名声を確立するきっかけとなりました。

見どころ

構図

通常の自画像では、画家は鏡に映る自分自身をまっすぐ見つめて描かれますが、この絵のベックリンは、むしろ何かに耳を澄ませているかのような表情を浮かべています。その肩の傍らには骸骨の死神が身を寄せ、まるで耳元で何かをささやいているかのように描かれています。

図像学

死神が手にするヴァイオリンには、たった1本の弦しか残っていません。この弦が切れたとき、画家の命も尽きるのだと解釈されています。死を弾き手として描く図像は、黒死病の流行以来ヨーロッパで繰り返し描かれてきた伝統(死の舞踏、メメント・モリ)に連なるもので、16世紀にハンス・ホルバインが手がけた同様の木版画群も、ベックリンにとって身近な参照源だったと考えられます。実際この絵は、一時期ホルバインの作品と誤って伝えられたこともありました。

評価

美術史家たちは、この絵が創作という行為の虚しさ、そして芸術家がどれほど作品に打ち込んでいても、死は常にその傍らにあり続けるという主題を描いていると指摘しています。ベックリンは象徴主義者に分類されることが多いものの、実際にはローマでルネサンス・バロック美術を学ぶことに多くの時間を費やしており、同時代の新しい芸術運動にはあまり関心を寄せていませんでした。この絵に見られるメメント・モリの図像も、17世紀初頭に流行した古い伝統への、独自の回帰だったといえます。

よくある誤解

誤解①「この絵は最初から死神を含めて構想されていた」→ 実際は友人の一言をきっかけに描き加えられた

死神が構図の中心を占めていることから、当初からそのつもりで描かれたと思われがちですが、伝承によれば、友人たちに「何を聴いているのか」と尋ねられたことがきっかけで、死神が後から描き加えられたとされています。

誤解②「ベックリンはこの絵で初めて『死』を主題にした」→ 実際は生涯繰り返し死を描いた画家だった

この絵が特別な例外だと思われがちですが、実際にはベックリンは《疫病》《戦争》(2バージョン)、そして代表作《死の島》(5バージョン)など、生涯を通じて死を主題にした作品を数多く手がけています。

FAQ

Q. 《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》とはどんな作品ですか?
A. ベックリンが1872年に描いた自画像で、制作中の自分の肩越しにヴァイオリンを弾く死神が忍び寄る様子を描いています。アルテ・ナショナルギャラリーが所蔵しています。

Q. なぜヴァイオリンの弦は1本しかないのですか?
A. この弦が切れたとき、画家の命が尽きることを暗示していると解釈されています。

Q. この絵はなぜ描かれたのですか?
A. 伝承によれば、友人たちに「何を聴いているのか」と尋ねられたことをきっかけに、死神の姿を描き加えたとされています。

Q. 《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》はどこで見られますか?
A. ドイツ・ベルリンのアルテ・ナショナルギャラリーが所蔵しています。

まとめ

《ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像》は、通常の自画像が鏡の中の自分を見つめるのに対し、画家が何かに「耳を澄ませている」瞬間を捉えることで、死という存在が創作の傍らに常につきまとうという、深い精神性を表現した作品です。1本しか残らないヴァイオリンの弦は、150年以上を経た今もなお、創作と死の隣り合わせという、芸術家の普遍的な緊張感を静かに物語り続けています。

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