《ハーレムの聖バヴォ教会内部(英:The Interior of the Grote Kerk at Haarlem)》は、オランダの画家ピーテル・サーンレダムが1636年から37年にかけて手がけた油彩画で、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されている。ハーレムの大教会(グローテ・ケルク、通称聖バヴォ教会)の内部を描いたこの絵は、写実的な建築画に見えながら、実は現実の建物を大胆に誇張して構成された、緻密な演出の産物だ。今回はこの絵が生まれるまでの丹念な制作過程と、写実の裏に隠された作為について見ていく。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ピーテル・ヤンス・サーンレダム(1597〜1665) |
| 制作年 | 1636〜37年 |
| 技法・素材 | 油彩・オーク板 |
| サイズ | 約59.5×81.7cm |
| 所蔵 | ナショナル・ギャラリー(ロンドン)収蔵番号NG2531 |
| 収蔵年 | 1910年 |
一言でいうと
現地で見た通りに描いたはずの教会の柱が、実際よりもずっと太く、遠くの空間はずっと深く見える。写実を装いながら、荘厳さのために現実を書き換えてしまった1枚。
制作背景
4年をかけて描き続けた連作
サーンレダムは1634年から1637年にかけて、自らが暮らし活動していたハーレムの大教会、通称聖バヴォ教会の内部を主題にした連作を手がけた。この絵はその連作のうちの1点にあたる。小さな画面でありながら、完成までには膨大な作業が費やされている。
現地スケッチから板への転写まで
サーンレダムの制作過程は非常に段階的だった。まず現地で直接スケッチを取り、次に精密な測量に基づいた準備素描を作成する。そして最終的な構図を実際に描くための板へと直接転写するという手順を踏んでいた。1636年5月29日の日付が記された準備素描には「私自身がハーレムの大教会にて実物を見て描き終えた」という趣旨の書き込みが残されており、1636年11月21日に構図の下絵を完成させ、1637年5月初めに彩色まで完了させたことが記録から判明している。
現実を超えた「荘厳さ」の演出
完成した絵と、現存する準備素描を比較すると、サーンレダムが最終的な構図に大きな調整を加えていたことがわかる。彼は手前の柱の太さを実際よりも大幅に誇張し、アーチ越しに見える奥行きのある空間もより深く見えるように改変している。この結果、実際の教会よりもはるかに壮大で、巨大な柱と遠くまで続く眺望を持つ空間として描かれることになった。
見どころ

The Interior of the Grote Kerk at Haarlem
1636-7
Oil on oak, 59.5 x 81.7 cm
Salting Bequest, 1910
NG2531
https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/NG2531
誇張された手前の柱
画面中央に立つ巨大な柱は、実際の建築物よりも太く描かれている。この誇張によって、柱の重量感と教会全体の荘厳さが、実物以上に強調される効果を生み出している。
奥へと続く回廊の眺め
画面左には、アーチが連なりながら奥へと消えていく回廊の眺めが描かれている。三次元の空間を平面上で説得力を持って再現するというこの試みは、当時の絵画技法における最大の難題の一つであり、サーンレダムはこの分野で卓越した技巧を発揮した画家として高く評価されている。
説教壇に立つ牧師と会衆の姿
画面左手前には、説教壇に立つ人物とそれを聞く小さな人物たちの姿が描かれている。壮大な建築空間のなかにささやかに配置されたこれらの人物が、教会という場の日常的な機能をさりげなく物語っている。
壁に掛かる紋章と装飾
柱や壁面には、菱形の紋章板(ハッチメント)がいくつか掛けられている。こうした細部の描写にも、サーンレダムが実際の教会の様子を丹念に観察していたことがうかがえる。
実際に見るには
本作はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されており、1910年に同館のコレクションに加わった。同館には同じ画家による「ユトレヒトのブールケルク教会内部」も所蔵されており、あわせて見ることで、サーンレダムが教会建築という主題にどれほど繰り返し取り組んでいたかを知ることができる。
よくある誤解
この絵はしばしば「教会内部を忠実に写した記録画」として紹介されがちだが、実際には柱の大きさや空間の奥行きが意図的に誇張されている。写実性の高さで知られる画家でありながら、その写実の裏には建物をより壮大に見せるための緻密な作為が隠されていることを知ると、この絵の見方も変わってくる。
FAQ
Q. 《ハーレムの聖バヴォ教会内部》はどこで見られますか?
ロンドンのナショナル・ギャラリー(NG2531)に所蔵されている。
Q. この絵に描かれている教会はどこにありますか?
オランダのハーレムにある大教会(グローテ・ケルク、通称聖バヴォ教会)である。
Q. この絵は実際の教会をそのまま描いたものですか?
いいえ。柱の太さや空間の奥行きが実際よりも誇張され、より荘厳に見えるよう構成が調整されている。
Q. サーンレダムはどのようにこの絵を制作したのですか?
現地でのスケッチ、精密な測量に基づく準備素描、そして板への転写という段階的な手順を経て制作された。
Q. この絵はいつナショナル・ギャラリーの所蔵になったのですか?
1910年に同館のコレクションに加わった。
まとめ
《ハーレムの聖バヴォ教会内部》は、緻密な測量と現地調査に基づきながらも、最終的には現実を上回る荘厳さを演出するために構図が書き換えられた1枚だ。写実と作為が同居するこの絵の奥行きは、サーンレダムという画家が単なる記録者ではなく、空間そのものを設計し直す演出家でもあったことを静かに物語っている。
