朝もやの中、蒸気を上げながら作業を続ける労働者たちの姿が、逆光を受けて黒いシルエットとして浮かび上がっています。背景には建設中の巨大な建物がぼんやりと霞んで見えます。《ブルー・モーニング》(1909年)は、アメリカの画家ジョージ・ウェスレー・ベローズによる油彩画で、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートが所蔵しています。ニューヨークのペンシルヴェニア駅(ペン・ステーション)の建設現場を主題にした連作の最後を飾る一枚でありながら、前作への批判をきっかけに、より穏やかな装いをまとうことになった作品です。
基本情報
作者:ジョージ・ウェスレー・ベローズ(1882〜1925)
制作年:1909年
技法・素材:油彩・カンヴァス
所蔵:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.、チェスター・デール・コレクション)
主題:ニューヨーク、ペンシルヴェニア駅の建設現場
連作:1907〜1909年に手がけた同駅の建設風景を描く連作4点のうちの最後の一点
一言でいうと
《ブルー・モーニング》は、建設中だったペンシルヴェニア駅の現場で働く労働者たちの朝の様子を、逆光による幻想的な色調で描いた作品です。同じ主題を扱った前作が「野蛮なほど粗雑」「陰惨な醜さ」と酷評されたことを受け、ベローズはこの絵でより穏やかで見応えのある構図を選んだと考えられています。
制作背景
ベローズはニューヨークで活動し、画家ロバート・ヘンライのもとで学んだ画家で、同門にはジョン・スローンやエドワード・ホッパーもいました。ヘンライは弟子たちに、上品な画室の中の題材ではなく、自分の身の回りの現実の世界を描くよう説いており、この教えがベローズの都市風景への強い関心につながったと考えられています。
彼が主題に選んだペンシルヴェニア駅は、ペンシルヴェニア鉄道会社が主導し、建築事務所マッキム・ミード・アンド・ホワイトが設計を手がけた、当時としては極めて野心的な建設事業でした。この巨大プロジェクトは世間の強い関心を集めており、建設が進む間、新聞や雑誌が定期的にその進捗を報じていました。ベローズは1907年から1909年にかけて、この工事現場を主題にした4点の連作を手がけており、《ブルー・モーニング》はその最後を締めくくる作品です。
他の3点は、いずれも大きく口を開けた掘削現場そのものに焦点を当てたものでした。そのうち公に展示された《ペンシルヴェニアの掘削》と《夜の掘削》は、批評家たちから「野蛮なほど粗雑」「陰惨な醜さ」と評され、厳しい批判を受けています。ベローズはこうした反応を踏まえてか、《ブルー・モーニング》ではより落ち着いた、見応えのある構図を選んだようです。
見どころ

逆光が生み出す幻想的な奥行き
この絵の最大の特徴は、あえて逆光の構図を採用している点です。前3作が生々しい掘削現場そのものを主役に据えていたのに対し、この絵では現場の穴は背景に退き、代わって朝もやの中で建設中の駅舎がぼんやりと浮かび上がる、幻想的な奥行きが強調されています。
シルエットで描かれる労働者たち
画面手前には、逆光を受けて黒いシルエットとして描かれた労働者たちの姿があります。彼らが焚く火から立ちのぼる白い蒸気が、画面に静かな動きを与えており、ベローズはこうした労働の場面に、ほとんど古典的とも言えるような品格を与えています。
印象派的な筆致と写実の同居
朝もやと光の表現には印象派を思わせる緩やかな筆致が使われている一方、労働という営みそのものは記録的なまでに写実的に捉えられています。この二つの要素が同居することで、都市の変貌という現実の出来事を、詩的な光景へと昇華させています。
評価と受容
《ブルー・モーニング》は1910年4月、ペン・ステーションが開業する数か月前に開催された「独立芸術家展」で発表されましたが、当時の批評ではほとんど言及されず、批評家フランク・ジューエット・メイザーがこれを「注目すべき建築的な構成」と一言添えるにとどまりました。ベローズはこの絵の後も、同年12月には《ザ・ロウン・テネメント》や《橋、ブラックウェルズ・アイランド》(トレド美術館蔵)といった作品で、当時建設されたばかりのクイーンズボロ橋を題材に、同様の都市の変貌というテーマに取り組み続けています。皮肉なことに、ベローズがこれほど熱心に描いたペンシルヴェニア駅そのものは、後年の反対運動にもかかわらず1963年に取り壊されてしまい、豪華な彫像類も各地に散逸することになりました。
よくある誤解
誤解①「この絵は連作の中で最初に手がけられた作品である」→ 実際は4点の連作の最後に描かれている
新しい主題への最初の挑戦のように見えますが、実際にはこの絵は1907年から1909年にかけて手がけられた同じ主題の連作の中で、最後に完成した作品です。
誤解②「この絵は掘削現場そのものを主役に据えている」→ 実際は現場を背景に退け、労働者たちの姿を前景に据えている
連作の他の作品と同じ構図だと思われがちですが、実際にはこの絵では大きく口を開けた掘削現場を背景の奥へと押しやり、代わって逆光の中で働く労働者たちの姿を前景の主役として描いています。
FAQ
Q. 《ブルー・モーニング》とはどんな作品ですか?
A. ベローズが1909年に手がけた油彩画で、建設中のペンシルヴェニア駅の現場で働く労働者たちを、逆光による幻想的な色調で描いています。ナショナル・ギャラリー・オブ・アートが所蔵しています。
Q. なぜこの絵は前作と違う雰囲気で描かれているのですか?
A. 同じ連作の前の作品が「野蛮なほど粗雑」「陰惨な醜さ」と批評家から酷評されたことを受け、ベローズがより穏やかで見応えのある構図を選んだためだと考えられています。
Q. ペンシルヴェニア駅は現在も残っていますか?
A. いいえ。批判や反対運動にもかかわらず、1963年に取り壊されており、豪華な彫像類も各地に散逸してしまいました。
Q. 《ブルー・モーニング》はどこで見られますか?
A. アメリカ・ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートが所蔵しています。
まとめ
批判を受けて描き直された一枚が、結局のところ当時はほとんど話題にならず、静かに歴史に埋もれていったというのは、なんとも皮肉な巡り合わせです。それでも今日、この絵がかつての批判を跳ね返すだけの静かな説得力を持っていると感じられるのは、ベローズが労働という営みに向けた、変わらぬ敬意のおかげなのかもしれません。
