レンブラント《サムソンの失明》とは|光のなかで暴かれる、裏切りと暴力の一瞬

《サムソンの失明》(1636年)は、レンブラントが、旧約聖書の士師記に記された、サムソンの転落の場面を描いた、大画面の歴史画です。暗い洞窟のような部屋に、強い光が差し込み、髪を切られて力を失ったサムソンが、ペリシテ人の兵士たちに、押さえつけられています。画面の左奥では、デリラが、切り取った髪と、鋏を手に、光のなかを、足早に立ち去ろうとしています。劇的な明暗と、緊迫した動きで、レンブラントの30歳ごろの傑作とされます。ドイツ・フランクフルトのシュテーデル美術館が所蔵しています。

基本情報

作者はレンブラント・ファン・レイン(1606〜1669)、制作年は1636年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは、資料により、縦206×横276cm(多くの美術館データ)、縦219.3×横305cm(シュテーデル美術館のデジタル・コレクション)などの違いがあります。シュテーデル美術館の収蔵番号は1383で、1905年から、同館の所蔵です。画面の中央下には、「Rembrandt f. 1636」と、署名と年号があります。

主題|士師記のサムソン

サムソンは、イスラエルの士師(指導者)の一人で、髪を切らない限り、怪力を保つという、神との約束を持っていました。彼を倒そうとしたペリシテ人は、サムソンが愛した女性デリラに、怪力の秘密を探らせます。デリラは、眠ったサムソンの髪を切り、ペリシテ人に、引き渡しました。力を失ったサムソンは、捕らえられ、目をえぐられます(士師記16章19〜21節)。

レンブラントは、1628年ごろにも、「サムソンがデリラに裏切られる」場面を描いています(ベルリン絵画館)。この絵は、それから、数年後に、その後の場面を、大画面で、描いたものです。

見どころ|光の舞台

英語版ウィキペディアは、この作品を、「デリラが、背景で、髪の束と鋏を手に、逃げていく様子が描かれ、戦う人々のうち、一人は、おそるおそる、場面に入り、一人はサムソンを床に押さえつけ、一人は縛り、一人は目をえぐる」と解説しています。

画面の左から差し込む、スポットライトのような光は、舞台の照明のようで、人物を、闇のなかから、浮かび上がらせます。左前には、毛皮の衣を着た男が、短剣を構えて、立ち、サムソンの顔のそばには、鎧をつけた兵士たちが、体を押さえつけています。サムソンの足は、宙に浮き、手首には、鎖が巻かれています。右奥には、羽根飾りのついた帽子の男が、おびえたように、のぞき込んでいます。

デリラは、画面の左上、光の当たる場所で、肩ごしに、後ろを振り返り、手にした、切り取られた髪と、鋏を、持ち上げています。顔には、笑みのような表情が見えますが、意味は、解釈が分かれています。

制作の背景|ホイヘンスへの贈り物

英語版ウィキペディアによれば、レンブラントは、この絵を、オラニエ家の秘書、コンスタンテイン・ホイヘンスに贈りました。これは、オラニエ家から、注文を受けていた「受難」の連作の、制作の遅れの、言い訳として贈られたとされます。

レンブラントは、ホイヘンスに宛てた手紙で、この作品を、「強い光の当たる場所に掛けて、少し離れたところから見られるようにすれば、最も効果的だ」と書いています(日本語版ウィキペディアなど)。

受容

この絵の、暴力の描写は、見る者に、強い衝撃を与えます。スマーティファイは、この作品が、「目をそむけたくなるほどの、おぞましさを持っているが、劇的な明暗表現によって、鑑賞者を惹きつけて離さない」と評しています。作家エリアス・カネッティは、この絵を、少年時代に見て、強い印象を受けたと、自伝に記しています。カネッティは、「それを見た者は、失明とは何かを知る」という趣旨の言葉を、書き残しています(千葉大学の論文による)。

まとめ

《サムソンの失明》は、聖書の物語の、最も暴力的な一瞬を、光と影の演劇的な舞台に、置き換えた作品です。残酷さと、美しさが、同じ画面に共存し、見る者に、人間の裏切りと、力の脆さを、突きつけます。

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