ゴッホ《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝》とは|アルルの雪の日に、部屋の中で咲いた春

《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝》(1888年3月)は、フィンセント・ファン・ゴッホが、南仏アルルに着いて間もないころに描いた、小さな静物画です。縞模様のある透明なグラスに、白い花と、ふくらんだつぼみをつけた、アーモンドの小枝が一本、挿してあります。背景の壁の淡い灰色と、赤い一本線、手前の机に走る黄色の筆跡が、早春の光の明るさを伝えます。アムステルダムのファン・ゴッホ美術館が所蔵しています。

基本情報

作者はフィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)、制作年は、1888年3月のはじめとされます。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは、縦24×横19cmです。カタログ番号は、F392、JH1361、ファン・ゴッホ美術館の収蔵番号は、s0184V1962です。画面の左上には、「Vincent」の署名が、赤い色で書かれています。

制作の背景|雪のアルルで

ゴッホは、1888年2月、パリを離れて、南仏のアルルへ向かいました。ゴッホは、果樹園の花を描くつもりでしたが、南仏は、雪で迎えました。ファン・ゴッホ美術館の解説によると、ゴッホは、そんななかでも、早くも花を咲かせていた、アーモンドの木から、つぼみのついた小枝を折り、コップの水に挿して、花が開くのを待ちました。

3月3日ごろ、弟テオ宛の手紙で、ゴッホは、「ここは厳しく凍りつき、田園には、まだ雪がある」と書き、それにもかかわらず、すでに花を咲かせたアーモンドの枝を描いた、「2点の小さな習作」があると報告しています。この「2点」が、この作品と、《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝と本》(F393、個人蔵)です。3月中旬には、天気は変わりやすいが、アーモンドの木が、いたるところで咲き始めたと、書いています。

見どころ|グラスと光

画面の中央には、側面に細い縦の筋のある、背の低い、ガラスのコップがあります。コップは、水色の線で縁取られ、白や淡い青緑の絵の具で、透明感が表されています。コップの口から、アーモンドの枝が、斜めに立ち上がり、先のほうが、右上と右下へ分かれて伸びています。枝には、白と淡いピンクの花が、いくつも開き、そのまわりに、つぼみが、ふくらんでいます。花びらの縁には、薄い赤や黄が、小さく添えられています。

背景は、淡い灰紫色の壁で、中ほどに、赤みの強いオレンジ色の線が、横一直線に、走っています。壁の下は、少し濃い灰色の帯で、その下に、机の面が、広がります。机は、黄色、薄緑、白の筆跡が、斜めに並び、コップの右側には、青い影が、線の集まりで描かれています。

ファン・ゴッホ美術館の解説を引用するウィキペディアによれば、早春の気配を表すために、繊細な筆づかいと、パステル調の色を用いたとされます。

日本美術との関係

英語版ウィキペディアは、美術研究者ブルース・ロスの見方を紹介しています。それによれば、この絵は、折り取られた小枝が、簡素なグラスに挿され、ベージュの壁に引かれた赤い線と、広い余白が、その小枝を際立たせており、装飾的な意図は、見られません。日本の生け花に似た、簡素さと、希望の感じ、余白の使い方が、あるというのです。赤い署名が、枝の上に浮かぶ様子は、希望の象徴のようだとも、述べています。これは、ひとりの研究者の解釈で、ゴッホ自身の言葉ではありません。

ゴッホは、パリ時代から、浮世絵を集め、日本的な構図や色の使い方を、自分の絵に取り入れていました。アルルを、「南の日本」と呼んだことも、知られています。

1890年の《花咲くアーモンドの木の枝》との違い

アーモンドの花をテーマにした、ゴッホの作品としては、1890年2月に、サン=レミで描かれた、大きな《花咲くアーモンドの木の枝》(縦73.5×横92cm、ファン・ゴッホ美術館)が、よく知られています。こちらは、弟テオに男の子(フィンセント・ウィレム)が生まれたことを祝って、描かれた作品です。この記事で取り上げる、1888年の小品は、それとは別の作品です。

まとめ

《グラスに入れた花咲くアーモンドの枝》は、雪の降る、部屋の中で、一本の小枝に春を見つけた、ゴッホの喜びを、静かに伝える作品です。絵の具の筆跡の一つひとつが、明るく、軽やかで、まだ寒い、アルルの朝の光を、思わせます。南仏での、あの多産な日々のはじまりに、ゴッホが、どれほどの期待を抱いていたかが、小さな画面から、伝わってきます。

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