《ル・ペルティエ通りのオペラ座の稽古場》(1872年)は、エドガー・ドガが、パリのオペラ座の稽古場を描いた、小さな油彩画で、パリのオルセー美術館が所蔵しています。橙色がかった壁の広い部屋に、白いチュチュの踊り子たちが散らばり、バーを握る者、順番を待つ者、先生の指示を聞く者が、それぞれの姿勢で、画面を満たしています。ドガが、踊り子の稽古の場面を、本格的に描き始めた初期の作品で、画面の上品な落ち着きが、古き良き時代のバレエへの郷愁を、感じさせます。
基本情報
作者はエドガー・ドガ(1834〜1917)、制作年は1872年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは、オルセー美術館の記録で、縦32.7×横46.3cm(額縁を含めると縦51.7×横65.5cm)です。収蔵番号はRF 1977で、画面の左下に、「Degas」と、赤い字の署名があります。原題は、「Le Foyer de la danse à l’Opéra de la rue Le Peletier」です。「踊りの審査」という別名で、紹介されることもあります。
描かれた場所|ル・ペルティエ通りのオペラ座
「ル・ペルティエ通りのオペラ座」とは、1875年に、現在のガルニエ宮が完成する前の、パリの旧オペラ座です。旧オペラ座は、1873年10月に、火災で焼失し、ドガは、その後も、長く、この場所を思い出しながら、描き続けたと、フランスの歴史画像のサイトは述べています。ドガは、若いころから、この劇場に通っており、オーケストラの楽団員だった友人(バスーン奏者のデジレ・ディオーなど)を通じて、舞台裏や稽古場にも、出入りするようになりました。
制作の背景
フランス語版ウィキペディアによれば、ドガは、1871年に描いた《ダンス教室》が成功したのち、稽古中の踊り子を、繰り返し素描し、人間の動きを研究しました。踊り子たちは、ドガがオペラ座にいることに、すでに慣れていた、とのことです。この絵は、1872年に、画商ポール・デュラン=リュエルが、画家から直接、購入しています。
見どころ|稽古場の情景

画面は、奥行きのある広い稽古場で、床は、明るい褐色の板張りです。壁は、黄土色で、天井近くには、飾りのある帯状の装飾が、巡っています。奥の中央には、大きなアーチ形の枠があり、その中の鏡に、踊り子たちの姿が、淡く映っています。アーチの両側には、大理石のような柱が、立っています。左側の扉は、開いており、その向こうにも、踊り子の姿が見えます。
画面の左から奥にかけて、赤い横木のバーが、一直線に走り、その前で、踊り子たちが、練習しています。一人は、バーに片足を乗せて、背を伸ばし、ほかの二人は、その近くで、順番を待っています。左手前では、黒い首飾りと、黒いリボンを腰に結んだ踊り子が、右を向いて、稽古の位置につこうとしています。フランス語版ウィキペディアは、この踊り子を、ヒューズ嬢(Mlle Hughes)としています。
右側では、白い服の男性が、手を軽く広げて、話しています。その人物は、ルイ=アレクサンドル・メラントで、オペラ座のバレエ教師(ダンスの指導者)です。最後の注意を与えているところと、解説されています。そのそばでは、杖を持った男性が、腰かけています。まわりでは、腰に手を当てた踊り子たちが、話を聞き、手前には、床に座って、足を伸ばす踊り子が、見えます。
手前の中央には、空いた椅子が、一脚あり、その座面に、赤い扇子と、白い布が、置かれています。壁のバーや、椅子の扇子、腰のリボンの赤が、画面全体の落ち着いた色のなかで、アクセントになっていると、展覧会の公式サイトは解説しています。
構図について
フランスの歴史画像のサイトは、後年の《ダンス教室》(1873〜76年)と比べ、この作品の構図が、「より穏やか」で、奥のアーチが、全体に古典主義的な雰囲気を与えていると述べています。それぞれの人物が、あちこちを向いて、動きの瞬間を見せていますが、画面は、整然としています。
来歴
この絵は、1872年に、デュラン=リュエルが購入し、同年から1888年まで、ロンドンのルイ・ハスの所蔵となりました。その後、アンリ・ヴェヴェール、ミシェル・マンジの手を経て、1894年に、イザーク・ド・カモンド伯爵が購入しました。カモンドは、遺言で、コレクションを、1911年に、国に遺贈しました。その後、ルーヴル美術館、ジュ・ド・ポームを経て、1986年から、オルセー美術館が所蔵しています。
日本での展示
東京都美術館で、2026年11月14日から2027年3月28日まで開かれる、「東京都美術館開館100周年記念 オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」展の、プロローグ(「ダンス」がテーマ)に、この作品が出品される予定です。他会場への巡回はありません。
まとめ
《ル・ペルティエ通りのオペラ座の稽古場》は、ドガが、踊り子の世界へ踏み出した、初期の一枚です。舞台の華やかさではなく、稽古の合間の、日常的な時間を、静かな色で描いています。小さな画面のなかに、古いオペラ座の空気と、そこで働く人々の気配が、そっと閉じ込められています。
