《窓辺の裸婦》(1946年)は、中国出身の画家・潘玉良(パン・ユーリャン、1895〜1977)が、パリで描いた油彩画です。窓の外に木々が見える明るい部屋で、両手を頭の後ろに回した裸婦が、緑の肘掛け椅子に腰かけています。鮮やかな色と大胆な模様に囲まれたこの裸婦像は、西洋の油彩画の技法と、中国の筆法、そして女性としての自己主張を結びつけた、潘玉良の代表作のひとつとして知られています。
基本情報
作者は潘玉良(1895〜1977)、制作年は1946年。技法は油彩・カンヴァスで、サイズは約91.5×65.4cmの縦長の画面です。署名と年号(「Yuliang, 46」)が記されています。英語では「Nude by the Window」の題で知られています。2006年にクリスティーズ香港で出品され、約572万香港ドルで落札されました。現在の所蔵先は、確認できていません。
制作背景|パリで描かれた女性の裸体
潘玉良は、1895年に中国・江蘇省の揚州で生まれ、本名を陳秀清といいました。安徽省で育ち、両親を亡くした14歳のとき、叔父に妓楼へ売られたと伝えられます。その後、画家としての才能を見いだされ、上海の美術学校、リヨン、パリ、ローマで学びました。中国で西洋式の絵画を描いた最初の女性として知られ、のちにパリの美術学校(エコール・デ・ボザール)で教えています。
本作は、そのパリで1946年に描かれました。西洋美術で多く描かれてきた女性の裸体を、中国の写意(自由な筆法)の感覚で捉え直した作品で、この試みは、中国美術の転機を示すものと評されています。
見どころ|色と模様に囲まれた部屋

画面には、強い色が敷き詰められています。女性の肌は、黄土色や黄緑色で塗られ、実際の肌色よりも、色の面として扱われています。腰かけているのは、緑色の肘掛け椅子で、背には、赤と青で縁どられた大きな渦巻き模様と、ハート形のような模様があります。椅子の座面には、本か写真のようなものと、小さな箱が置かれています。
背景には、赤い飾り房のついた黄色いカーテンが、両側から垂れています。右には、赤い小花模様のテーブルクロスをかけた小さなテーブルがあり、その上の青い花瓶に、ピンク色の花が生けられています。床には、暗い赤の絨毯に、緑の渦巻きや花形の模様が広がっています。窓の外には、白い手すりのバルコニーと、緑の木々、青い空が見えます。
あらゆる面が模様で覆われているのに、画面は混乱しません。模様の面と色の面が、ひとつひとつ輪郭線で区切られ、組み合わされることで、装飾的で、見通しのよい構成になっています。マティスらフォーヴィスムの画家たちの色彩感覚を思わせる画面です。
見どころ|うつむく視線と伸びやかな姿勢
女性は、黒い髪を後ろにまとめ、頬を赤く染めて、目を伏せています。両腕を頭の後ろに上げ、片脚をもう一方の脚の上に組む姿は、くつろいでいるようにも、鑑賞者の視線をやり過ごしているようにも見えます。手足の輪郭は、太く柔らかな線で描かれ、体の曲線が画面のなかに大きく広がります。
見られるための姿というよりも、自分の時間を過ごしている人のような静けさがあるのが、この絵の特徴です。
評価と影響
潘玉良は、女性の裸体を、鮮やかな色の背景のなかに描くことで、女性としての自由、自立、平等への思いを表現したと言われます。当時の中国では、裸体画をめぐる議論は根強く、北京で、中国初の本格的な油彩裸体画展が開かれたのは、1988年のことでした。女性が女性の裸体を描くことには、二重の意味がありました。
潘玉良の作品の多くは、1985年に中国へ運ばれ、北京の中国美術館や安徽省博物館に収蔵されています。近年は、東洋と西洋、そして性別をめぐる緊張のなかで制作した、中国近代の重要な女性画家として評価が高まっています。
まとめ
《窓辺の裸婦》は、色と模様にあふれた部屋のなかで、ひとりの女性が静かに身を休める姿を描いた作品です。西洋と東洋、装飾と形、見る者と見られる者。潘玉良は、そのあいだに自分の居場所を作ろうとしていました。
