歌川国芳《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》とは|人が寄り集まってできた、こわくて優しい顔

《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》(1847〜48年頃)は、幕末の浮世絵師・歌川国芳が手がけた戯画で、大判の錦絵です。現代の表記にすれば「みかけはこわいが、とんだいい人だ」。目をむき、口を尖らせた強面の男の顔が、よく見ると、無数の裸の人々が寄り集まってできています。「寄せ絵」と呼ばれる騙し絵の代表作で、国芳の機知とデッサン力をよく伝える一枚です。

基本情報

作者は歌川国芳(1797〜1861)、制作年は1847〜48年頃(弘化4〜嘉永元年)とされます。1847〜52年とする資料もあります。技法は多色摺りの木版画(錦絵)で、判型は大判、大きさはおよそ38×25cmです。画面には「一勇斎国芳戯画」の署名があり、「戯画」とは、おどけた趣向の絵という意味です。

同じ図柄の摺りは複数の美術館に伝わり、東京富士美術館のほか、メルボルンのヴィクトリア国立美術館、デュッセルドルフのクンストパラストなどでも、その存在が知られています。

見どころ|人でできた顔

《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》

画面いっぱいに、横向きの巨大な顔が描かれています。大きく見開いた丸い目、太い眉、ぼってりした鼻、不機嫌そうに突き出した唇。頭には縞の鉢巻を締め、髷を結っています。右手前の肩は、茶と白の大きな縞と輪の模様の着物で覆われ、左手前には、広げた片手が差し出されています。

そして、この顔の部分はすべて、小さな裸の人物たちで作られています。頭から額にかけては、何人もの人物が折り重なり、そのうちの一人が、鉢巻の端を引っぱっています。耳のあたりには、頬づえをつく人物が座り、鼻や頬、唇の周りも、体を曲げた人物たちで形作られています。差し出された手のひらや指も、複数の人物の体の組み合わせです。東京富士美術館の解説では、目、鼻、口から眉、髷まで、さまざまな姿態の人間を組み合わせて表現し、おそらくは着物の中の体つきもそうだろうとされています。

一人ひとりの人物は、不自然なほど正確に、人の体としての自然な形をとっています。それが寄り集まって顔になる、その仕掛けの巧みさが、この絵の一番の見どころです。

題名の面白さ

題名の「みかけはこわいが、とんだいい人だ」は、「人は見かけによらない」という言い回しそのままです。顔つきは確かに怖いのに、中身は優しい人だという冗談です。しかも、その人は、文字どおり多くの人でできています。「いい人」という言葉が、人柄の良さと、たくさんの人が集まってできた人間という絵の仕掛けの、両方に響いているようにも読めます。

朝比奈義秀との関係

画面の着物の模様から、この顔の主は、鎌倉時代の武将・朝比奈義秀(朝比奈三郎)ではないかという指摘があります。朝比奈義秀は、怪力の持ち主として知られる人物です。国芳の作品を扱ったクンストパラストの展覧会図録は、この作品が、朝比奈義秀の異国での旅の物語にもとづくものだと説明しています。ただし、東京富士美術館は、この点を「取りざたされている」と、慎重に扱っています。

寄せ絵という遊び

人や物を寄せ集めて、別の何かの姿を作る「寄せ絵」は、江戸時代の人々が好んだ戯画の形式です。西洋では、果物や野菜で人の顔を作ったアルチンボルドが知られていますが、国芳がその影響を受けたかどうかは、はっきりしていません。国芳は、同じ趣向で、《人かたまって人になる》《人をばかにした人だ》《としよりのよふな若い人だ》といった題の作品も残しています。いずれも、題名の言葉遊びと、人で作った顔や姿の組み合わせが、一体になっています。

板木と摺り

この作品は、板木も現存しています。没後150年にあたる2011年の国芳展(森アーツセンターギャラリー)では、「板木・新摺品」として、板木と、そこから新たに摺られたものが、展示されました。江戸時代の摺り、そして現代に摺られたものが並ぶことで、この絵が、長く愛され続けてきたことがうかがえます。

評価と影響

国芳の人気は、近年は国内だけでなく、海外でも高まっています。2009年にロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開かれた「KUNIYOSHI」展は、大きな話題を呼び、2010年にはニューヨークでも開かれました。この《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》は、その代表作のひとつで、現代でも、北米版のトヨタ・プリウスのCMでCGによって再現されたり、富士通のポスターの着想に使われたりと、さまざまな形で引用されています。

まとめ

《みかけハこハゐが とんだいゝ人だ》は、人の体を組み合わせて、一つの顔を作る、江戸の遊び心にあふれた一枚です。怖い顔と優しい中身、一人の人と多くの人。相反する要素をひとつの画面に収めた発想は、170年以上たった今も、見る者を笑わせ、驚かせ続けています。

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