ニューオーリンズの綿花取引所とは|ドガが親戚の危機を描いた1枚

ポー美術館(フランス)に、綿花の商いに勤しむ紳士たちを描いた油彩画がある。《ニューオーリンズの綿花取引所(仏:Un bureau de coton à la Nouvelle-Orléans)》と題されたこの作品は、フランスの画家エドガー・ドガが1873年に手がけたものだ。

基本情報

項目内容
作者エドガー・ドガ(1834〜1917)
制作年1873年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ73×92cm
所蔵ポー美術館(フランス)

親戚の会社を描いた偶然の1枚

ドガは1872年末、弟ルネとともにヨーロッパからニューオーリンズへ渡り、母方の叔父ミシェル・ミュッソンのもとを訪れた。1873年1月にヨーロッパへ戻る予定だったが、帰国が延期されたことをきっかけに、彼は叔父の綿花仲買業の仕事場を主題とした本作を描くことにした。当初はイギリス・マンチェスターの繊維製造業者に売却する意図があったとされるが、世界的な株価の下落と綿花・美術市場の低迷により、この計画は実現しなかった。

事業破綻の予兆を描いた1枚

本作はドガの叔父ミュッソンをはじめ、弟のルネとアシル、そしてミュッソンの娘婿ウィリアム・ベルらが、日々の業務や休息のひとときを過ごす様子を描いている。研究者のなかには、この絵がまさにミュッソンの綿花仲買業が経済危機のなかで破綻へと向かっていく時期を捉えたものだと指摘する声もある。

見どころ

綿花を検分するミュッソン

画面手前には、ドガの叔父ミュッソンが白い綿花を手に取り、その品質を確かめる様子が描かれている。この仕草が、綿花取引という当時の南部経済の中心的な営みを象徴的に示している。

新聞を読む弟ルネ

画面中央には、新聞を広げて読みふけるルネの姿がある。忙しく立ち働く周囲の人々とは対照的なこの寛いだ様子が、画面に緩急のリズムを与えている。

描かれなかった黒人労働者たち

実際の綿花仲買業の現場には、綿花のサンプルを運ぶ黒人の労働者たちが日常的にいたはずだが、本作にはその姿が描かれていない。この不在は、当時のルイジアナの人口構成を踏まえると、意図的な選択だったのではないかとも指摘されている。

美術館へ売却された最初の作品

本作は1876年、パリで開かれた第2回印象派展に出品された。1878年、フランス・ポーに新設されたばかりの美術館がこれを購入し、これがドガの作品として初めて美術館に売却された1枚となった。この売却は、無名の画家から評価される画家へと移り変わる、彼のキャリアの転機になったとされている。

実際に見るには

本作はフランス・ポーの美術館に所蔵されている。ドガの作品としては珍しく、バレエや女性の裸体像ではなく、男性の実業家たちの日常を描いた例として、彼の画業の幅広さを示す1枚となっている。

FAQ

Q. 《ニューオーリンズの綿花取引所》はどこで見られますか?
フランス・ポーの美術館に所蔵されている。

Q. なぜこの絵は描かれたのですか?
帰国が延期されたことをきっかけに、滞在中の叔父の仕事場を主題として制作した。

Q. なぜ美術館への売却が重要だったのですか?
ドガの作品として初めて美術館に購入された例であり、彼のキャリアの転機になったとされている。

Q. なぜ黒人労働者が描かれていないのですか?
実際には多くの黒人労働者がいたはずだが、本作にはその姿が見られず、意図的な選択だったのではないかと指摘されている。

まとめ

《ニューオーリンズの綿花取引所》は、帰国できずに足止めされたドガが、偶然その場に居合わせたことで生まれた1枚だ。叔父の会社が抱えていた危機を思いながら見返すと、画面の落ち着いた日常の光景の裏に、静かな緊張感が漂っていることに気づかされる。

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