少女の恐怖とは|クレーが1本の矢印に込めた驚き

ニューヨークのグッゲンハイム美術館に、涙型の大きな顔を持つ奇妙な人物を描いた小さな水彩画がある。《少女の恐怖(独:Schreck eines Mädchens、英:Fright of a Girl)》と題されたこの作品は、スイス出身の画家パウル・クレーが1922年に手がけたものだ。

基本情報

項目内容
作者パウル・クレー(1879〜1940)
制作年1922年
技法・素材水彩・インク・紙
サイズ29.7×22cm
所蔵ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)

バウハウスで教鞭を執っていた時期の1枚

クレーはドイツとスイスの両方にルーツを持つ画家で、表現主義やキュビスム、シュルレアリスムといった当時の潮流から影響を受けながらも、それらのどれにも収まらない独自の様式を築き上げた。1921年からはバウハウスの教員としてヴァイマルで教鞭を執っており、本作はまさにその在職中に描かれている。同僚だったロシア出身の画家ワシリー・カンディンスキーとともに、当時の造形教育に大きな足跡を残した人物としても知られている。

クレーは生来の線描の名手で、色彩理論を深く研究し、それについて著した講義録は、のちに英訳されて「パウル・クレーの手記」として知られることになる。彼の作品はしばしば、幼児期の無邪気さを思わせる視点から出発しながら、同時にきわめて瞑想的な深みを湛えている点に特徴があるとされる。

見どころ

涙のしずくのような巨大な頭部

画面の大部分を占めているのは、しずくのように上部が丸く、下にすぼまっていく巨大な頭部である。この誇張されたプロポーションが、幼い人物の姿を、どこか超現実的な存在へと変容させている。

左右非対称に描かれた目

顔には、大きさも表情も異なる左右の目が描かれている。この非対称さが、単なる驚きの表情というより、内面のざわめきや不安定さを画面ににじませている。

小さく添えられた手足と首飾り

頭部の下には、対照的に小ぶりな胴体と手足が描き添えられ、首元には小さな飾りが連なっている。この不釣り合いな比率が、人物全体に人形めいた、はかない印象を与えている。

画面左下の黒い矢印

画面の左下には、大きく右を指す黒い矢印が描き込まれている。人物そのものとは直接関係のないこの記号的な要素が、驚きや動揺の方向性を暗示するかのように、画面に奇妙な緊張感を添えている。

実際に見るには

本作はニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館に所蔵されている。クレーが手がけた作品の多くは小さな紙面に描かれており、水彩や版画を含むこうした作品群をあわせて見ることで、彼が線と色彩をどれほど自在に操っていたかがうかがえる。

FAQ

Q. 《少女の恐怖》はどこで見られますか?
ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館に所蔵されている。

Q. この絵はいつ、どこで描かれましたか?
1922年、クレーがバウハウスの教員としてヴァイマルに在職していた時期に制作された。

Q. なぜ顔がこれほど大きく誇張されているのですか?
明確な理由は明らかにされていないが、幼児的な視点と超現実的な変容を組み合わせるクレーの作風の特徴の1つとされている。

Q. 左下の矢印にはどんな意味がありますか?
はっきりとした説明はないが、驚きや動揺の方向性を示唆する記号的な要素として描き込まれたのではないかと考えられている。

Q. クレーはどんな画家でしたか?
バウハウスで教鞭を執りながら、色彩理論の研究と独自の線描表現によって、特定の美術潮流に収まらない作風を築いた画家である。

まとめ

《少女の恐怖》は、涙型に誇張された頭部と非対称な目によって、幼さと不穏さを同時に漂わせる小さな1枚だ。左下に描き込まれた矢印の意味を明かさないまま、クレーはこの絵を見る者の想像に委ねている。

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