ニューヨーク州ロチェスター大学のメモリアル・アート・ギャラリーに、赤い羽根飾りの帽子をかぶった女性が猫に食べ物を分け与える様子を描いた1枚がある。《中華料理店(英:Chinese Restaurant)》と題されたこの絵は、アメリカの画家ジョン・スローンが1909年に手がけたもので、実際にその場でスケッチしたのではなく、記憶だけを頼りに描き上げられた作品だ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ジョン・スローン(1871〜1951) |
| 制作年 | 1909年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 66.04×81.28cm |
| 所蔵 | メモリアル・アート・ギャラリー(ロチェスター大学) |
日記に記された、ある夜の光景
スローンは1909年2月23日の夜、ヘラルド・スクエア近くの6番街にあるレストランへふらりと足を運んだ。彼はその夜の日記に、派手に着飾った女性が店の太った猫と戯れている姿を見かけたこと、これは絵にする価値があると記している。しかしすぐには筆を執らず、およそ4週間が経った3月15日になってから、記憶をもとにこの光景を描き始めたと日記に記録している。制作の途中、彼はその店を再訪して記憶を確かめているが、それはちょうど良いタイミングだったとも書き残している。翌日にはその店が別の場所へ移転してしまう予定だったからだ。
師ロバート・ヘンライの教え
スローンは、画家ロバート・ヘンライを師と仰ぎ、「自分がよく知っているものを描け」という彼の教えに従って、身の回りの日常的な光景を主題に選び続けた画家だった。1909年当時、彼は社会党の活動的な党員でもあり、労働者階級の人々の暮らしに光を当てることを自らの絵画の使命の1つとしていた。本作もまた、そうした日常への眼差しから生まれた1枚である。
見どころ

猫に食べ物を分け与える女性
画面中央には、赤い羽根飾りの帽子をかぶった女性が、笑いながら足元の猫に食べ物を差し出す姿が描かれている。この何気ない仕草こそが、スローンがこの光景を描きたいと思い立った直接のきっかけだった。
麺をすする男とそれを眺める2人
女性の向かいには、磁器の器から麺をすする男の姿があり、さらにその奥には、2人の男が興味深げにこの様子を眺めている。それぞれの人物の視線や仕草の違いが、1つのテーブルを囲む複数の物語を静かに描き分けている。
期待に満ちた表情の猫
画面手前には、女性を見上げる1匹の猫が描かれている。人間たちの会話には加わらないこの猫の存在が、画面全体にくつろいだ空気と、ちょっとしたユーモアを添えている。
20世紀初頭ニューヨークの外食文化
1900年前後のニューヨークでは、中産階級の拡大や女性の就労機会の増加、移民の流入によって、中華料理店をはじめとする多様な民族料理店が急速に広まりつつあった。本作はそうした新しい外食文化のひとこまを、当時の観察者としてのスローンの目を通して切り取った作品でもある。
実際に見るには
本作はニューヨーク州ロチェスター大学のメモリアル・アート・ギャラリーに所蔵されている。スローンをはじめとする「アッシュカン・スクール」の画家たちは、20世紀初頭のニューヨークの日常を数多く描き残しており、あわせて見ることで、当時の都市生活への彼らの共通した関心の広がりを知ることができる。
FAQ
Q. 《中華料理店》はどこで見られますか?
ロチェスター大学のメモリアル・アート・ギャラリーに所蔵されている。
Q. この絵はどのように描かれたのですか?
実際にその場でスケッチしたのではなく、数週間前に見た光景を記憶から描き起こした作品である。
Q. スローンはどんな画家でしたか?
「アッシュカン・スクール」に属し、ニューヨークの日常的な都市生活を主題とし続けたアメリカの画家である。
Q. なぜ猫が描かれているのですか?
スローンが実際に目撃した、女性が店の飼い猫と戯れる光景そのものが、この絵の着想の出発点になったためである。
Q. 女性の描かれ方には何か含みがあるのですか?
派手な装いや化粧から、当時のある種の女性像を思わせるという指摘もあるが、スローンはこれを非難する視線ではなく、微笑ましい日常の一コマとして描いている。
まとめ
《中華料理店》は、ある夜にふと目にした何気ない光景を、数週間後に記憶だけで描き上げた1枚だ。猫に食べ物を分け与える女性の笑顔と、それを取り巻く人々の視線。都会の片隅で起きるこんな小さな一幕を、スローンは決して見逃さなかった。
