《キリストの復活(伊:Resurrezione、英:The Resurrection)》は、初期ルネサンスの画家ピエロ・デラ・フランチェスカが1460年代に手がけたフレスコ画で、イタリア・トスカーナのサンセポルクロ、市立美術館に今も制作当時のまま残されている。石棺から力強く立ち上がるキリストの姿を描いたこの絵は、20世紀に「世界最高の絵画」と評され、第二次世界大戦のさなかには、その評判ゆえにイギリス軍将校が砲撃を思いとどまったという逸話まで持つ。今回はこの絵が生まれた背景と、戦火からこの絵を救った奇跡的な出来事について見ていく。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ピエロ・デラ・フランチェスカ(1415/20頃〜1492) |
| 制作年 | 1460年代(1467〜68年ごろ) |
| 技法・素材 | フレスコ |
| サイズ | 約225×200cm |
| 所蔵 | 市立美術館(サンセポルクロ、トスカーナ) |
| 制作場所 | 旧宮殿(パラッツォ・デラ・レジデンツァ)の評議の間 |
一言でいうと
眠り込む4人の兵士の上に、静かに、しかし圧倒的な力強さでそびえ立つキリスト。この1枚が20世紀に「世界で最も偉大な絵画」と呼ばれ、実際に町を戦火から救うことになった。
制作背景
統治者たちが祈った評議の間
この絵は、サンセポルクロにあったゴシック様式の旧宮殿、パラッツォ・デラ・レジデンツァの評議の間を飾るために描かれた。この部屋は、町の統治者であった行政官(コンセルヴァトーリ)たちだけが使用する空間で、彼らは評議を始める前にこの絵の前で祈りを捧げていたと伝えられている。
ハクスリーが「世界最高の絵画」と称賛
1925年、イギリスの作家オルダス・ハクスリーはこの絵についてのエッセイを書き、「世界最高の絵画」と絶賛した。当時この地方は交通の便が悪く、実際にこの絵を見た美術愛好家はごくわずかだったが、ハクスリーの文章によって、この絵の名声は一気に広まることになった。
砲撃を思いとどまったイギリス軍将校
第二次世界大戦中、サンセポルクロは砲撃の標的にされる危険にさらされていた。しかしこの地に配置されていたイギリス陸軍の将校アンソニー・クラークは、かつて読んだハクスリーのエッセイを思い出し、この絵がこの町にあることに気づく。彼は上官の命令に反してでも砲撃を思いとどまり、結果としてドイツ軍がすでに撤退していたことがのちに判明した。この決断により、絵と町は破壊を免れることになる。サンセポルクロには今も、クラークの名を冠した通りが残されている。
見どころ

石棺から立ち上がるキリスト
画面中央、キリストは片足を石棺の縁にかけ、力強い姿で立ち上がっている。復活の旗を手にしたその体は、まるで古代彫刻のように完璧で傷一つない造形で描かれ、脇腹の傷だけがその犠牲を静かに物語っている。
眠り込む4人の兵士
キリストの足元には、番をしていたはずの4人の兵士たちが深く眠り込んでいる。人間の眠り、すなわち死の世界と、神の光によって打ち破られる復活の世界との対比が、この構図によって鮮やかに表現されている。
2つの消失点を持つ革新的な構図
この絵は、2つの消失点を用いた最初期の絵画の一つとされている。石棺の上端がちょうど2つの視点の境界となっており、丘陵の急な傾斜がこの視点の切り替えを違和感なく馴染ませている。数学者でもあったピエロならではの、幾何学的な精緻さがここに発揮されている。
冬から春へと移り変わる風景
画面左側には葉を落とした裸の木々が、右側には緑豊かに茂った木々が描き分けられている。この対比は、キリストの復活の光によってもたらされる人類の再生を象徴しており、夜明けの淡い光に包まれた風景全体が、この主題を静かに支えている。
実際に見るには
本作はイタリア・トスカーナのサンセポルクロにある市立美術館に、制作当初の壁面のまま残されている。同館にはピエロの別の代表作「慈悲の聖母マリアの祭壇画」も所蔵されており、あわせて見ることができる。2014年から2016年にかけては大規模な修復が行われ、特別に設けられた見学用の足場から、修復の様子を見学することもできた。
よくある誤解
この絵はしばしば「単なる有名な宗教画」として紹介されがちだが、実際にはその評価と存続そのものが、20世紀の文学者の評価と、戦時中の一人の軍人の決断に大きく左右されてきたという特異な歴史を持つ。単なる美術史上の傑作としてだけでなく、人々の判断によって守られてきた1枚として見ることで、この絵の重みがより深く伝わってくる。
FAQ
Q. 《キリストの復活》はどこで見られますか?
イタリア・トスカーナのサンセポルクロにある市立美術館に、制作当時のまま所蔵されている。
Q. なぜこの絵は「世界最高の絵画」と呼ばれたのですか?
1925年、作家オルダス・ハクスリーがエッセイのなかでこの絵をそう評したことに由来する。
Q. 第二次世界大戦中にこの絵に何があったのですか?
サンセポルクロへの砲撃が計画されていたが、ハクスリーのエッセイを読んでいたイギリス軍将校アンソニー・クラークが砲撃を思いとどまり、絵と町が破壊を免れた。
Q. この絵の構図にはどんな特徴がありますか?
2つの消失点を用いた、当時としては革新的な遠近法の構成を持っている。
Q. 画面左右の木々の違いには意味がありますか?
左の裸の木と右の緑の木は、キリストの復活による人類の再生を象徴しているとされる。
まとめ
《キリストの復活》は、絵画としての完成度だけでなく、それを見た人々の評価と決断によって存続してきたという特異な歴史を持つ1枚だ。石棺から立ち上がるキリストの静かな威厳は、500年以上の時を経てなお、この町とともに生き続けている。
