《コンポジション VII》(1913年)は、抽象絵画の先駆者ワシリー・カンディンスキーによる油彩画で、モスクワのトレチャコフ美術館が所蔵する作品です。渦を巻くような色彩と形態が画面全体を覆うこの絵は、カンディンスキーの戦前における画業の頂点と評される大作でありながら、30点を超える準備素描を経た末、実際のカンヴァスへの制作は、驚くべきことにわずか4日間で仕上げられていました。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ワシリー・カンディンスキー(1866〜1944) |
| 制作年 | 1913年(ミュンヘンにて) |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 200.6×302.2cm |
| 所蔵 | トレチャコフ美術館(モスクワ) |
| 準備段階 | 30点を超える下絵・習作(素描・水彩・油彩) |
| 実制作期間 | わずか4日間(1913年11月25〜28日) |
一言でいうと
《コンポジション VII》は、渦を巻くような色彩と形態が画面全体を覆う、カンディンスキーの戦前における画業の頂点と評される大作でありながら、30点を超える準備段階の習作を数か月かけて積み重ねた末、実際のカンヴァスへの制作は、記録に残る写真によれば、わずか4日間で仕上げられていたという、驚くべき制作過程を持つ作品である。
制作背景
この絵は、カンディンスキーが《コンポジション V》《コンポジション VI》(いずれも1913年制作、後者は現エルミタージュ美術館所蔵)に続けて手がけた、連作の集大成にあたる作品です。3作品はいずれも「復活」「大洪水」「最後の審判」という主題を探求していますが、《コンポジション VII》は、より自由な形態と、鮮やかな色彩の爆発によって、他の2作品よりもさらに具象からの決別を推し進めた作品とされています。
制作にあたり、カンディンスキーは30点を超える鉛筆・インク・水彩による下絵と、少なくとも10点の大型油彩習作を手がけました。これらの多くは1913年秋に集中的に制作され、ある紙には同じ曲線が10回も繰り返し描かれ、また別の紙には構図全体の骨格が簡略に示されるなど、極めて緻密な準備が積み重ねられています。しかし驚くべきことに、これほどの準備期間を経たにもかかわらず、実際にこの巨大なカンヴァスに絵の具が塗られたのは、1913年11月25日から28日までの、わずか4日間だったことが、当時撮影された写真によって確認されています。
見どころ

主題をめぐる二つの見方:美術史家たちは、この絵の造形的なモチーフが、カンディンスキーが以前手がけた一連の作品(《最後の審判》《万聖節I・II》《最後の審判の天使》《復活》)に由来していると分析しており、これらの黙示録的な図像に登場する「登場人物」たちが、形を変え、鏡像となり、あるいは解体・引き伸ばされながら、この絵の中に流れ込んでいると考えられています。専門家の総合的な見解では、この絵は「復活」「最後の審判」「大洪水」「楽園」という主題を統合したものとされています。しかし、カンディンスキー自身は、この絵には「出発点となる主題や、物質的な起源を持つ形態は一切ない」と明言しており、鑑賞者が特定の物語を読み解くことよりも、色彩と形態そのものが生み出す「内なる響き」を感じ取ることこそが重要だと主張していました。
構図:画面中央には、不規則な長方形が楕円形と交差する中心的なモチーフが置かれ、これを核として、色彩と形態の渦が周囲を取り巻くように広がっています。
評価
《コンポジション VII》は、カンディンスキーの第一次世界大戦前の画業における頂点として、抽象絵画の歴史における画期的な作品と位置づけられています。カンディンスキーは生涯を通じて10点の「コンポジション」を手がけましたが、最初の3点は第二次世界大戦中に失われ、今日現存するのは7点のみです。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、これらの現存作品と31点の準備習作を集めた大規模な回顧展「カンディンスキー:コンポジションズ」を開催し、この連作の全貌を紹介しています。
よくある誤解
誤解①「この巨大で複雑な絵は、長い時間をかけてカンヴァスに描かれた」→ 実際は数か月の準備を経た後、わずか4日間で完成された
これほど複雑な画面構成から、制作にも長い時間を要したと思われがちですが、実際には数か月にわたる準備段階の習作制作の後、実際のカンヴァスへの制作は、記録された写真によれば、わずか4日間で完了しています。
誤解②「カンディンスキーはこの絵で特定の聖書の物語を描こうとした」→ 実際は特定の主題を持たないと本人が明言している
「大洪水」「最後の審判」といった主題が指摘されていることから、これらの物語を具体的に描いた作品だと思われがちですが、実際にはカンディンスキー自身は、この絵には出発点となる主題や物質的な形態の起源は一切ないと明言しており、色彩と形態そのものが生み出す感覚こそが重要だと主張していました。
FAQ
Q. 《コンポジション VII》とはどんな作品ですか?
A. カンディンスキーが1913年に手がけた油彩画で、渦を巻くような色彩と形態が画面全体を覆う、抽象絵画の頂点を示す大作です。トレチャコフ美術館(モスクワ)が所蔵しています。
Q. なぜこの絵は準備に時間がかかったのに、制作は短期間だったのですか?
A. 30点を超える下絵や習作を通じて構図を綿密に練り上げた上で、実際のカンヴァスへの制作は一気に行われたためで、その過程は1913年11月25日から28日までの写真によって記録されています。
Q. この絵にはどんな主題が込められているのですか?
A. 美術史家たちは「復活」「最後の審判」「大洪水」「楽園」といった黙示録的な主題を指摘していますが、カンディンスキー自身は特定の主題を持たないと主張しています。
Q. 《コンポジション VII》はどこで見られますか?
A. ロシア・モスクワのトレチャコフ美術館が所蔵しています。
まとめ
《コンポジション VII》は、渦を巻くような色彩と形態が画面全体を覆う、カンディンスキーの戦前における画業の頂点と評される大作でありながら、30点を超える準備段階の習作を数か月かけて積み重ねた末、実際のカンヴァスへの制作は、記録に残る写真によれば、わずか4日間で仕上げられていたという、驚くべき制作過程を持つ作品です。数か月がかりの習作の末にたった4日で描き上げられたこの一枚は、110年以上経った今も、その速さを感じさせません。
