《共同発明》とは|「人魚」という神話の矛盾を暴いた反転する怪物を徹底解説

《共同発明》(1934年)は、ベルギーのシュルレアリスム画家ルネ・マグリットによる油彩画で、ドイツ・デュッセルドルフのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館が所蔵する作品です。波打ち際に打ち上げられた、下半身が人間の脚で上半身が魚という奇妙な生き物を描いたこの絵は、私たちが当たり前だと思い込んでいる「人魚」というイメージそのものの矛盾を、上下逆転の発想によって鮮やかに暴き出した作品です。

目次

基本情報

項目内容
作者ルネ・マグリット(1898〜1967)
制作年1934年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約73×116cm
所蔵ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館(ドイツ・デュッセルドルフ)
様式シュルレアリスム

一言でいうと

《共同発明》は、上半身が魚で下半身が人間の脚という、伝統的な人魚のイメージを上下逆さまに反転させた生き物を、波打ち際の砂浜に打ち上げられた姿で描くことで、「人魚」というイメージそのものが、実は何の必然性もない、人類が勝手に思い込んできた「共同発明」にすぎないのだと、痛烈に指摘した作品である。

制作背景

マグリットは、私たちがごく当たり前だと思い込んでいる日常的なものの見方の裏に潜む、奇妙さや違和感を暴き出すことを、生涯にわたる制作の中心テーマとしていました。人魚(マーメイド)とは、本来は上半身が美しい人間の女性で、下半身が魚の尾を持つとされる伝説上の生き物です。しかしマグリットはこの絵で、あえてその組み合わせを上下逆転させ、上半身が魚、下半身が人間の脚を持つという生き物を描き出しました。

この反転によってマグリットが示そうとしたのは、そもそも「人魚」という組み合わせ自体に、必然的な根拠など何もないという事実です。人間の女性の上半身と魚の尾を組み合わせたイメージも、その逆に魚の頭と人間の脚を組み合わせたイメージも、生物学的にはどちらも等しく荒唐無稽です。つまり、私たちが美しく神秘的だと思い込んでいる伝統的な人魚のイメージ自体が、実体のない、人類が集団で作り上げてきた一つの「発明」にすぎないのだと、マグリットはこの絵を通じて突きつけているのです。

見どころ

構図

画面手前には黄土色の砂浜が広がり、そこに、うつ伏せに横たわる奇妙な生き物が描かれています。滑らかな人間の脚と臀部から続く上半身は、鱗に覆われた銀色の魚の胴体へと変わり、砂の上に大きな魚の頭部が力なく横たわっています。背後には青々とした海が広がり、波が寄せては返しています。

図像学

通常の人魚が魅惑的に人々を誘うのに対し、この絵の生き物は、砂浜に打ち上げられ、動く様子もなく力なく横たわっています。海から出た魚が生きられないのと同じように、この生き物もまた、両方の世界のどちらにも属することができない、居場所のない存在として描かれています。伝統的な人魚が持つ優雅さや神秘性は、ここでは完全に剥ぎ取られており、むしろ痛々しいまでの現実感をもって描かれています。

技法

マグリットはこの絵において、極めて写実的な筆致を用いています。人間の肌の質感と、魚の鱗やひれの質感が、どちらも克明に描き分けられているからこそ、この生物のありえなさが、かえって強いリアリティを持って迫ってきます。空想的な主題を写実的な技法で描くという、マグリット特有の手法が、この絵にも貫かれています。

評価

《共同発明》は、マグリットが得意とした「見慣れたものの組み合わせを反転させる」という手法を、もっとも明快な形で示した作品の一つとして知られています。2013年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヒューストンのメニル・コレクション、シカゴ美術館が共同で開催した回顧展「マグリット:日常のミステリー 1926-1938」にも、彼の初期から中期を代表する作品として出品されました。今日では「リバース・マーメイド(逆転人魚)」という通称でも親しまれ、彫刻や立体作品として再制作されるなど、マグリットの作品の中でもとりわけ広く大衆文化に浸透した一枚となっています。

よくある誤解

誤解①「この絵は伝統的な人魚と同じく、上半身が人間で下半身が魚である」→ 実際は上下が完全に反転している
「人魚」というタイトルのイメージから、上半身が人間の女性で下半身が魚の尾を持つ、伝統的な人魚の姿を思い浮かべがちですが、実際にこの絵に描かれているのは、上半身が魚で下半身が人間の脚という、正反対に反転した生き物です。

誤解②「この絵は人魚の神秘性や美しさを称える作品である」→ 実際は人魚という発想そのものの矛盾を暴く作品である
幻想的な生き物を描いていることから、伝統的な人魚伝説を美しく描いた作品だと思われがちですが、実際にはマグリットは、人間と魚を組み合わせるという発想そのものに必然性がないことを示すことで、伝統的な人魚のイメージが持つ神秘性や美しさをあえて剥ぎ取ろうとしています。

FAQ

Q. 《共同発明》とはどんな作品ですか?
A. マグリットが1934年に描いた油彩画で、上半身が魚、下半身が人間の脚という、上下が反転した人魚のような生き物が、砂浜に打ち上げられている場面を描いています。ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館が所蔵しています。

Q. なぜタイトルが「共同発明」なのですか?
A. 人間と魚を組み合わせた「人魚」というイメージ自体に生物学的な必然性はなく、それが人類が集団で思い込んできた、実体のない「発明」にすぎないことを示唆するタイトルだと解釈されています。

Q. なぜこの生き物は上下が逆に描かれているのですか?
A. 通常の人魚の組み合わせも、その逆の組み合わせも、生物学的にはどちらも等しく荒唐無稽であることを示すことで、伝統的な人魚のイメージそのものの矛盾を浮き彫りにするためだと考えられています。

Q. 《共同発明》はどこで見られますか?
A. ドイツ・デュッセルドルフのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館が所蔵しています。

まとめ

《共同発明》は、上半身が魚で下半身が人間の脚という、伝統的な人魚のイメージを上下逆さまに反転させた生き物を、波打ち際の砂浜に打ち上げられた姿で描くことで、「人魚」というイメージそのものが、実は何の必然性もない、人類が勝手に思い込んできた「共同発明」にすぎないのだと、痛烈に指摘した作品です。上下をひっくり返しただけなのに、なぜこちらの方が奇妙に見えてしまうのか。90年近くが経った今も、その理由は誰にもうまく説明できていません。

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