《ローマの奴隷販売》とは|古代ローマを舞台にしたジェロームのもう一つの奴隷市場を徹底解説

《ローマの奴隷販売》(1884年)は、ジャン=レオン・ジェロームによる油彩画で、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館が所蔵する作品です。以前ご紹介した《奴隷市場》が中東・北アフリカを舞台にしていたのに対し、この作品は古代ローマという、より古い時代設定でありながら、同じく女性奴隷が競売にかけられるという、ジェロームが繰り返し取り上げた主題を扱っています。

目次

基本情報

項目内容
作者ジャン=レオン・ジェローム(1824〜1904)
制作年1884年頃
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ92×74cm(エルミタージュ版)
所蔵エルミタージュ美術館(ロシア・サンクトペテルブルク)
別バージョン「ある古代ローマの奴隷市場」64.1×56.9cm、ウォルターズ美術館(アメリカ・ボルティモア)
原題(仏)Vente d’esclaves à Rome

一言でいうと
《ローマの奴隷販売》は、以前手がけた中東を舞台にした《奴隷市場》と同じ主題を、古代ローマという歴史的舞台に置き換えることで、女性の身体を商品として値踏みするという非人間的な光景が、時代や地域を問わず存在してきたことを、図らずも浮かび上がらせる作品である。

制作背景

1884年、ロシアのセルゲイ・アレクサンドロヴィチ大公は、妻エリザヴェータ・フョードロヴナのために、ジェロームからこの絵を直接購入しました。同じ頃、ほぼ同様の構図を持つ「ある古代ローマの奴隷市場」という別バージョンも制作されており、現在はアメリカのウォルターズ美術館が所蔵しています。ジェロームは、中東を舞台にした《奴隷市場》で扱ったのと同じ「女性奴隷の競売」という主題を、今度は古代ローマという歴史的設定に置き換えて描きました。

見どころ

構図

競売台の上、月桂冠をかぶった裸の女性が、片手で顔を覆うように立っています。傍らにはトガをまとった年配のローマ人らしき人物(競売人とみられる)が立ち、その背後には値踏みをする他の男たちの姿も見えます。画面右手には他の裸の奴隷女性たちの一団があり、身を寄せ合う者、膝を抱えてうずくまる者もいます。台の下には、手を挙げて競り合う群衆が描かれ、赤煉瓦の壁が、古代ローマの市場か会堂の内部であることを示しています。

技法

ジェロームならではの緻密な写実技法により、古代ローマの市場という舞台が、あたかも実在した光景であるかのような説得力をもって再現されています。

図像学

古代ローマにおいて、奴隷は帝国全体の人口の15〜20%を占めていたともいわれ、公共の広場で堂々と売買される存在でした。奴隷たちは高い競り台の上に並べられ、首から出身地や特徴を記した札を下げられていたと伝えられています。この絵は、そうした歴史的な実態を踏まえながら、《奴隷市場》と同様、女性の身体が商品として値踏みされるという非人間的な光景を描き出しています。

評価と影響

この作品は、ジェロームが手がけた《奴隷市場》や《アレオパゴス会議のフリュネ》と同じく、「見られる女性の身体」という主題を繰り返し探究した、彼の画業における一連の系譜に連なる作品です。今日の美術館の目録では、この作品に「オークション」「エロティシズム」「性差別」「奴隷貿易」といった、複数の批評的な観点からのタグが付されており、単なる歴史考証を超えた、現代における再検討の対象ともなっています。

よくある誤解

誤解①「この絵とジェロームの《奴隷市場》は同じ作品である」→ 実際は舞台設定も制作年も異なる別の作品である

同じ画家による同じ主題の作品であることから、以前ご紹介した《奴隷市場》と混同されがちですが、実際にはあちらが中東・北アフリカを舞台にした1866年の作品であるのに対し、この《ローマの奴隷販売》は古代ローマを舞台にした1884年の、まったく別の作品です。

誤解②「この絵は1点しか存在しない」→ 実際は類似する複数のバージョンが存在する

単一の作品だと思われがちですが、実際にはエルミタージュ美術館所蔵版のほかに、ウォルターズ美術館が所蔵する「ある古代ローマの奴隷市場」という、ほぼ同様の構図を持つ別バージョンも存在します。

FAQ

Q. 《ローマの奴隷販売》とはどんな作品ですか?
A. ジェロームが1884年頃に描いた油彩画で、古代ローマにおける女性奴隷の競売の場面を描いています。エルミタージュ美術館が所蔵しています。

Q. ジェロームの《奴隷市場》とはどう違うのですか?
A. 《奴隷市場》が中東・北アフリカを舞台にした1866年の作品であるのに対し、この作品は古代ローマを舞台にした1884年の、別の作品です。

Q. なぜこの絵には複数のバージョンがあるのですか?
A. 明確な理由は伝えられていませんが、ジェロームは同一の主題で複数の類似作品を手がけることがあり、この絵もエルミタージュ版とウォルターズ美術館版という、少なくとも2つのバージョンが確認されています。

Q. 《ローマの奴隷販売》はどこで見られますか?
A. ロシアのエルミタージュ美術館が所蔵しています。類似する別バージョンはアメリカのウォルターズ美術館にあります。

まとめ

《ローマの奴隷販売》は、以前手がけた中東を舞台にした《奴隷市場》と同じ主題を、古代ローマという歴史的舞台に置き換えることで、女性の身体を商品として値踏みするという非人間的な光景が、時代や地域を問わず存在してきたことを、図らずも浮かび上がらせる作品です。今日の美術館がこの作品に付す批評的な観点は、ジェロームの精緻な写実技術が描き出した歴史の一場面を、現代の私たちがどう見つめ直すべきかという問いを、静かに投げかけ続けています。

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