本作(英題:Selling Slaves in Rome / A Roman Slave Market)は、ジャン=レオン・ジェロームが1884年のサロンに出品した油彩画で、アメリカ・ボルティモアのウォルターズ美術館が所蔵しています。以前ご紹介した《ローマの奴隷販売》(エルミタージュ美術館所蔵版)と、同じ古代ローマの奴隷競売という主題・同じ年に描かれていますが、こちらは競売にかけられる女性を背後から捉えた、異なる構図の作品です。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ジャン=レオン・ジェローム(1824〜1904) |
| 制作年 | 1884年頃(同年サロン出品) |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 64.1×56.9cm |
| 所蔵 | ウォルターズ美術館(アメリカ・ボルティモア) |
| 舞台 | 古代ローマ |
一言でいうと
本作は、エルミタージュ美術館所蔵の《ローマの奴隷販売》と対をなす作品でありながら、競売にかけられる女性を背後から捉えることで、値踏みする群衆の表情をより鮮明に浮かび上がらせた、視点の違いが際立つ一枚である。
見どころ

構図:競売台の上、赤毛の女性が背中を向けて立ち、髪をまとめるように手を上げています。画面左では、トーガをまとった年配の競売人が身を乗り出し、身振りを交えて値を呼びかけています。手前には、値踏みする群衆の様々な表情——好奇心、無関心、あるいは値踏みするような視線——が生々しく描き込まれ、右手には手を挙げて競り合う人々の姿も見えます。
姉妹作との違い:エルミタージュ版が女性を正面から捉え、顔に手を当てて恥じらう表情を強調しているのに対し、本作は彼女の背中越しに、群衆の表情を鑑賞者へ直接見せるという、対照的な視点を採用しています。ある美術解説では、本作の方がより暖色系の色調を用い、場面全体に生々しい躍動感を与えていると評されています。
評価と影響
本作は、ジェロームが「古代ローマ」と「19世紀イスタンブール」という2つの時代・地域を舞台に、繰り返し手がけた奴隷市場の連作の一つです。この2つの設定を並行して描いたこと自体が、ジェロームにとって古代ローマと当時のオリエント世界が、どこか地続きのイメージとして重なっていたことを示唆しているとも指摘されています。画商グーピルは、この作品を含むジェロームの人気作を数多く複製版画化しており、ダヘッシュ美術館で開催された展覧会では、こうした「絵画と複製産業」の関係にも焦点が当てられました。
よくある誤解
誤解①「この絵とエルミタージュ版《ローマの奴隷販売》は同一の作品である」→ 実際は構図も所蔵先も異なる姉妹作である
同じ主題・同じ制作年であることから同一作品だと誤解されがちですが、実際にはエルミタージュ美術館所蔵版が女性を正面から捉えているのに対し、本作(ウォルターズ美術館所蔵)は背後から捉えるという、明確に異なる構図を持つ、別々の作品です。
FAQ
Q. この絵とエルミタージュ版はどう違うのですか?
A. エルミタージュ版は競売にかけられる女性を正面から、本作は背後から描いています。視点の違いにより、前者は女性の表情を、後者は群衆の表情を強調する構成になっています。
Q. この絵はどこで見られますか?
A. アメリカ・ボルティモアのウォルターズ美術館が所蔵しています。
まとめ
本作は、エルミタージュ美術館所蔵の《ローマの奴隷販売》と対をなす作品でありながら、競売にかけられる女性を背後から捉えることで、値踏みする群衆の表情をより鮮明に浮かび上がらせています。同じ主題を異なる視点から繰り返し描いたジェロームの制作姿勢は、彼がこのモチーフにいかに強くこだわり続けたかを物語っています。


