ソローリャ《母》とは|白い寝具の海から顔だけをのぞかせる、母と生まれたばかりの娘

《母》(1895〜1900年頃)は、スペインの画家ホアキン・ソローリャが、妻クロティルデと、生まれたばかりの娘エレナを描いた作品で、マドリードのソローリャ美術館が所蔵しています。大きな画面のほとんどを、クリーム色の寝具が占め、そのなかから、母と赤ん坊の顔だけが、静かにのぞいています。出産のあとの安らぎと疲れを、白の色調で描いた、ソローリャの代表作の一つです。

基本情報

作者はホアキン・ソローリャ(1863〜1923)、制作年は1895年頃から1900年頃です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは縦125×横169cm。マドリードのソローリャ美術館(収蔵番号324)に所蔵されています。画面の右下には、「J Sorolla y Bastida」と読める署名があります。原題は「Madre」です。

制作背景|エレナの誕生

ソローリャ美術館は、この絵が、画家と妻クロティルデの、下の娘エレナの、1895年7月12日の誕生を祝うものだと説明しています。画面は、1895年に始まったものの、完成したのは、1900年になってからです。

ソローリャは、1888年に、師の娘クロティルデ・ガルシア・デル・カスティーリョと結婚し、マリア(1890年生まれ)、ホアキン(1892年生まれ)、エレナ(1895年生まれ)の3人の子どもに恵まれました。エレナは、のちに彫刻家、画家となります。ウィキペディアによれば、ソローリャが、エレナを初めて絵に描いたのが、この作品です。

準備のための習作としては、1895年に、ベッドの中の、クロティルデと赤ん坊を実物から描いた油彩と、1900年頃の、赤ん坊の頭部の習作が、挙げられています。

見どころ|白の海

画面の中央から右にかけて、白からクリーム色、淡い灰色、黄色みを帯びた白までが、重なり合う寝具が、画面を埋め尽くしています。筆は、短く、速く動かされ、布のふくらみや、しわの陰影が、少ない色で表されています。

その中央よりやや左には、赤ん坊の小さな頭が、見えています。顔は、生まれたばかりのように、橙がかった桃色で、目を閉じ、口元は、わずかにほころんでいます。ソローリャ美術館は、この小さな頭を、微笑むような顔と述べています。

右の奥には、母の頭が、枕にもたれ、赤ん坊のほうへ顔を向けています。黒い髪は、枕の白さと対照をなし、閉じた目と、ほのかに桃色を帯びた頬が、横顔として描かれています。ソローリャ美術館は、母の顔が、微妙に青白いと表現しています。布の下からは、母の手が、わずかにのぞいています。

背景は、淡い灰色とクリーム色の壁で、左端には、縦に走る、淡い帯があります。ほぼ空白に近い背景が、二人の姿を、いっそう際立たせます。

光と感情

ソローリャ美術館と、Googleアーツ&カルチャーは、この絵を、卓越した技法の達成であり、光と色彩を操ることで、強い身体感覚と、同じく強い感情を伝えるソローリャの力を、最もよく表す例の一つと述べています。

また、夫であり、父でもある画家の感情と、画家のまなざしが、濾過された光のなかに溶け合い、その光が、二つの頭が浮かぶ白を、撫でていると解説しています。世界全体が、このひとときの、すべてを包み込む親密さに、縮められたかのようです。

まとめ

《母》は、出産という出来事を、白い寝具の静けさに置き換えた作品です。誇張も、物語も加えず、母と子の寝顔だけを、光の中に残す。その控えめな画面が、新しい命の誕生にともなう、安らぎと、疲れと、喜びを、そのまま伝えています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!