フィンセント・ファン・ゴッホ《サント=マリー=ド=ラ=メールの道》とは|黄色い空の下、地中海の村へ続く道

《サント=マリー=ド=ラ=メールの道》(1888年6月初め)は、フィンセント・ファン・ゴッホが、南仏の漁村サント=マリー=ド=ラ=メールを訪れた小旅行をもとに描いた油彩画で、現在は個人が所蔵しています。大きく斜めに伸びる白い道、幾重にも重なる屋根、黄色く渦巻く空。強い色と太い筆致で、村の通りを大胆に切り取った風景画です。

基本情報

作者はフィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)、制作年は1888年6月初め頃。技法は油彩・カンヴァスで、サイズは38.3×46.1cmです。ゴッホがアルルに滞在していた時期の作品で、現在は個人蔵とされています。原題はフランス語で「Rue à Saintes-Maries」、英題は「Street in Saintes-Maries」です。

制作背景|一週間の小旅行

1888年の春、アルルでの生活を始めたゴッホは、5月末から6月初めにかけて、地中海に面した漁村サント=マリー=ド=ラ=メールへ、約1週間の小旅行に出かけました。体調を回復させることと、描くべき題材を探すことが目的でした。滞在先は、海岸に近い宿でした。

弟テオに宛てた手紙で、ゴッホは村の様子を、こう伝えています。浜辺は砂地で、崖も岩もなく、オランダのようだ。ただし、砂丘はなく、もっと青い。この村に家は100軒もないだろう。古い教会は砦のようで、その次に大きな建物は兵舎だ。

この旅から、ゴッホは数多くの素描と、いくつかの油彩画を残しました。浜辺の漁船や海の風景がよく知られていますが、村の家並みや通りを描いた作品もあります。本作は、その村の風景を描いた一枚で、アルルで描かれたとされています。

見どころ|斜めに伸びる道と草葺きの家

《サント=マリー=ド=ラ=メールの道》

画面は、右下から中央奥へ、白っぽい道が斜めに延びる構図です。道の左側には、屋根の面を大きく見せた家並みが、奥へ向かうにつれて小さくなりながら並んでいます。手前の屋根は、茶色の草のようなものが、何段にも重なるように葺かれています。その下の壁は、明るい青色で、屋根の茶色との対比が際立ちます。奥に続く屋根は、青灰色に塗られ、縁には、橙色が差されています。

道の右側には、緑の大きな茂みが、勢いよく広がっています。茂みには、青い点が散り、足元には、赤いケシの花が咲いています。遠景には、赤い屋根の家が、緑のなかにのぞいています。通りには人影がなく、静まりかえった午後の村の空気が伝わってきます。

見どころ|黄色い空と補色

空は、淡い黄緑から黄色へと広がり、絵具が厚く盛られ、渦を巻くようにうねっています。煙突から上がる細い煙が、その黄色い空に、縦の線を引いています。実際の空の色をそのまま写したというより、色の組み合わせを考えて、画面を構成したように見えます。

青い屋根と橙色の縁、緑の茂みと赤いケシ、黄色い空と青い壁。ゴッホは、補色の関係にある色を隣り合わせに置くことで、画面全体の明るさと強さを引き出しています。南仏の強い光のなかで、色そのものを主役にしようとした、この時期のゴッホの姿勢がよく表れています。

同じ道を描いた素描と、ほかの作品

ゴッホは、この通りを、葦ペンの素描としても描いています(個人蔵)。同じ旅では、白い家が並ぶ《サント=マリーの三軒の白い家》(チューリッヒ美術館)、遠くから町の全景をとらえた《サント=マリーの眺め》(クレラー=ミュラー美術館)なども描かれました。また、フィラデルフィア美術館には、道と家々を描いた素描が所蔵されています。

《サント=マリーの三軒の白い家》
《サント=マリーの眺め》

素描から油彩画への展開、同じ村を異なる視点から描き分ける姿勢など、短い旅のなかで、ゴッホがいくつもの形式を試していたことが分かります。

評価と影響

サント=マリー=ド=ラ=メールの作品群は、ゴッホが南仏で見いだした色彩と、大胆な筆致を、早い時期に示した例とされています。海の風景に比べると、村の通りを描いた本作は目立たない存在ですが、画面の大きな斜めの構成と、強い色面のなかに、のちのアルル時代の傑作に通じる力が感じられます。

まとめ

《サント=マリー=ド=ラ=メールの道》は、人のいない静かな通りを、強い色と筆致で描いた風景画です。短い旅の途中で、ゴッホが出会った小さな村の光と色が、この一枚に凝縮されています。

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