バレリーナのストライキとは|ファン・デル・ワイが描いた”抵抗するコール・ド・バレエ”

舞台の袖で、白いチュチュをまとった大勢のダンサーたちが1人の男を取り囲んでいる。オランダの画家ニコラース・ファン・デル・ワイが手がけた《バレリーナのストライキ(蘭:Een werkstaking: Strike of the Ballerinas、英:Strike of the Ballerinas)》と題されたこの絵は、優雅であるはずのバレエの世界に、労働争議という意外な主題を持ち込んだ1枚だ。

基本情報

項目内容
作者ニコラース・ファン・デル・ワイ(1855〜1936)
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ60×100cm
現在の所在個人蔵(2010年にアムステルダムのクリスティーズで競売)

孤児院の少女たちを描き続けた画家

ファン・デル・ワイはアムステルダムに生まれ、同地のアムステルダム国立美術アカデミー(ライクスアカデミー)で肖像画家ルイ・カープマンに師事した後、正式にアカデミーで学んだ。カープマンの娘とは後に結婚している。卒業後は1891年から同アカデミーの教授として30年以上にわたり教鞭を執り、ピート・モンドリアンやヤン・スロイテルスといった、後に名を成す画家たちを門下から輩出した。

画家としての彼は、オランダ王室の黄金馬車に施された寓意的な装飾画や、アムステルダム市民孤児院に暮らす少女たちを主題とした一連の作品でとりわけ知られている。赤と黒の特徴的な制服をまとった孤児院の少女たちの姿は、彼が繰り返し取り組んだライフワークとも呼べる題材だった。同時代の画家アイザック・イスラエルスやマックス・リーバーマンの影響を受け、彼の画風は次第により自由で印象派的な筆致へと移っていったとされる。

ドガに触発されたバレエの舞台裏

本作は、エドガー・ドガが手がけた一連のバレエ画に触発された作品の1つとみなされている。だが、ドガが好んで描いた稽古中の穏やかな情景とは異なり、ファン・デル・ワイはここで、ダンサーたちが劇場の支配人らしき人物に向かって抗議する、労働争議という前例の少ない場面を選んでいる。何を理由にした抗議なのか、画中には具体的な説明はなく、役割分担への不満なのか、報酬をめぐる対立なのか、見る者の想像に委ねられている。

見どころ

一列に並ぶダンサーたちの背中

画面左手には、白いチュチュをまとったダンサーたちが、横一列にずらりと並んで立っている。舞台上での優雅な一体感とはまるで異なる、腕を組んだ抗議の姿勢が、この一団の結束を静かに物語っている。

非協力的な態度を見せる支配人

画面右手には、葉巻をくわえた劇場の支配人らしき男が、ダンサーたちに向かって手振りを交えながら何かを語りかけている。その態度からは、彼女たちの要求に対してあまり協力的ではない様子がうかがえる。

手前で1人取り残されたダンサー

支配人と居並ぶダンサーたちのあいだには、腰に手を当てて立つ1人のダンサーの姿がある。集団のなかにいながらどこか孤立して見えるこの人物に、鑑賞者の視線は自然と引き寄せられる。

舞台裏という現実の光景

画面全体を包む薄暗い舞台裏の空間は、華やかな本番の舞台とは対照的な、労働の現場としての生々しさを漂わせている。この舞台裏という設定そのものが、本作の風刺性を支える重要な要素になっている。

実際に見るには

本作は2010年にアムステルダムのクリスティーズで競売にかけられ、以降は個人の所蔵作品として扱われている。ファン・デル・ワイの他の代表作、とりわけアムステルダム市民孤児院の少女たちを描いた作品群は、アムステルダム博物館などで見ることができる。

FAQ

Q. 《バレリーナのストライキ》は現在どこにありますか?
2010年の競売以降、個人の所蔵作品となっている。

Q. この絵はなぜ「ストライキ」と呼ばれているのですか?
ダンサーたちが劇場の支配人に対して抗議する様子が描かれており、その要求の内容は明示されていない。

Q. ファン・デル・ワイはどんな画家でしたか?
アムステルダム国立美術アカデミーの教授を長く務め、孤児院の少女たちを主題とした作品で知られるオランダの画家である。

Q. なぜドガとの関連が指摘されるのですか?
本作がドガの一連のバレエ画に触発された作品と考えられているためである。ただし主題は稽古風景ではなく労働争議という点で大きく異なる。

Q. ファン・デル・ワイの代表作は他にありますか?
アムステルダム市民孤児院の少女たちを描いた一連の作品や、王室の黄金馬車のための装飾画が特に知られている。

まとめ

《バレリーナのストライキ》は、優雅であるはずのバレエの世界に、労働争議という意外な現実を持ち込んだ1枚だ。一列に並んで抗議するダンサーたちと、非協力的な支配人との対比を通して、ファン・デル・ワイは舞台の華やかさの裏にある働く者たちの現実を、静かに、しかし確かに突きつけている。

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