《スケートをする牧師》とは|作者論争を抱えたスコットランドの国民的肖像画

《スケートをする牧師(英:Reverend Robert Walker Skating on Duddingston Loch、通称The Skating Minister)》は、18世紀末に描かれたとされる油彩画で、現在はエディンバラのスコットランド国立美術館に所蔵されている。凍った湖の上を、片脚を優雅に浮かせて滑る黒装束の牧師の姿を描いたこの絵は、スコットランドで最も愛される絵画の一つだ。しかしこの絵には、誰が描いたのかという長年の論争が今も決着していないという意外な一面がある。今回はこの絵に描かれた人物と、作者をめぐる興味深い謎について見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者ヘンリー・レイバーン(帰属、異論あり)
制作年1790年代ごろ
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約76×64cm
所蔵スコットランド国立美術館(エディンバラ)
描かれた人物牧師ロバート・ウォーカー(1755〜1808)

一言でいうと

黒い燕尾服と帽子だけの牧師が、片脚立ちで凍った湖面を滑走する。その洗練されたシルエットの裏に、実は「本当に誰が描いたのか」という決着のつかない謎が隠れている。

制作背景

オランダ仕込みのスケート

描かれている牧師ロバート・ウォーカーは、スコットランド国教会の聖職者で、エディンバラのスケートクラブの一員だった。彼は幼少期、父親がロッテルダムで牧師を務めていた時期にオランダでスケートを覚えたとされ、この絵の構図全体にもオランダ絵画の様式が反映されていると考えられている。

1949年まで無名だった名画

この絵は長らくウォーカー家に代々受け継がれ、一般にはほとんど知られていなかった。1949年、スコットランド国立美術館がおよそ500ポンドという安価でこの絵を競売で取得したことをきっかけに、次第に広く知られるようになっていった。以来、スコットランド啓蒙主義の時代を象徴する国民的な絵画として、マグカップやマウスパッド、ネクタイなど数々のグッズにもそのデザインが使われるようになった。スコットランド議会議事堂の外壁パネルのデザインにも、この絵が着想源の一つとなっている。

レイバーンかダンルーか、決着のつかない論争

この絵は長年、スコットランドの肖像画家ヘンリー・レイバーンの作とされてきた。しかし2005年、当時スコットランド国立肖像画館の学芸員だったスティーヴン・ロイド博士は、この絵が実はフランスの画家アンリ=ピエール・ダンルーの手によるものではないかという説を提唱した。ダンルーは1790年代にエディンバラに滞在しており、この絵のカンヴァスのサイズや様式がフランス人画家に特有のものだという指摘がなされた。2013年にはX線調査によって、顔の部分にレイバーンの他の作品には見られる鉛白の絵具が検出されないことも判明し、論争は再燃した。それでも美術館側は、この説を裏付ける「決定的で説得力のある」証拠はないとして、現在も公式にはレイバーンの作としている。

見どころ

完璧なバランスで滑る牧師

画面中央、牧師は片脚を後方に高く上げ、腕を胸の前で組んだまま、驚くほど安定した姿勢で氷上を滑っている。この人為的とも思えるほどのバレエ的な姿勢が、この絵に独特の緊張感と優雅さを与えている。

シルエットのように描かれた黒い装束

黒い燕尾服と帽子に身を包んだ牧師の姿は、背景の淡いグレーの空との対比によって、まるで切り絵のようなシルエットとして浮かび上がっている。この単純化された色彩構成が、絵全体に独特の静けさと象徴性をもたらしている。

異例の小さなサイズと動きのある構図

美術館自身も、この絵について「動きのある人物を描いたこの小さな絵画は、レイバーンの他の肖像画とはまったく異なる」と認めている。通常のレイバーンの肖像画がスタジオでの静的なポーズを描くのに対し、この絵は屋外での動的な一瞬を捉えている点で際立って異質だ。

実際に見るには

本作はエディンバラのスコットランド国立美術館に所蔵されている。2005年にはニューヨークのクリスティーズで開催されたタータン・デーの展覧会にも貸し出され、作者論争のさなかにありながらも、スコットランド文化を代表する作品として国外でも紹介されている。

よくある誤解

この絵はしばしば「レイバーンの代表作」として疑いなく紹介されがちだが、実際には作者をめぐる論争が今も完全には決着しておらず、美術館自身もこの絵が画家の他の作品とは様式的に大きく異なることを認めている。単なる有名な肖像画としてではなく、美術史における帰属の難しさを象徴する一枚として見ることで、この絵の別の魅力が見えてくる。

FAQ

Q. 《スケートをする牧師》はどこで見られますか?
エディンバラのスコットランド国立美術館に所蔵されている。

Q. 描かれている牧師は誰ですか?
スコットランド国教会の牧師ロバート・ウォーカーで、エディンバラのスケートクラブの一員だった。

Q. この絵の作者について、なぜ論争があるのですか?
様式やカンヴァスのサイズがレイバーンの他の作品と異なるとの指摘から、フランスの画家アンリ=ピエール・ダンルーの作ではないかという説が2005年に提唱されたためである。

Q. この絵はいつから広く知られるようになったのですか?
1949年にスコットランド国立美術館が競売で取得して以降、次第に広く知られるようになった。

Q. 現在この絵は誰の作品とされていますか?
公式にはヘンリー・レイバーンの作とされているが、確定的な証拠はなく、今も議論が続いている。

まとめ

《スケートをする牧師》は、凍った湖の上で完璧なバランスを保つ牧師の姿を描いた、スコットランドを代表する肖像画だ。優雅なシルエットの奥に、誰が本当にこの絵を描いたのかという未解決の謎が潜んでいることを知ると、この絵の見え方もまた少し違ったものになる。

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