アンリ・ルソー《要塞の眺め》とは|灰色の空の下、城壁に沿って歩いていく男

《要塞の眺め》(1909年)は、アンリ・ルソーが、亡くなる前年に描いた風景画で、広島のひろしま美術館が所蔵しています。灰色がかった緑の空の下、白っぽい壁に沿って道が続き、杖をついた小さな男が、背を向けて歩いています。ジャングルの絵や、華やかな祝祭の絵で知られるルソーの、静かで寂しい一面を見せる作品です。

基本情報

作者はアンリ・ルソー(1844〜1910)、制作年は1909年です。技法はキャンバスに描いた油彩で、サイズは縦45.8×横55.0cm。ひろしま美術館に所蔵されています。原題は「Vue des fortifications」で、画面の左下には、「Henri Rousseau」と署名があります。

題材|パリの城壁と、ルソーの仕事

題名の「要塞」は、パリを取り囲んでいた、城壁(フォルティフィカシオン)を指します。ルソーは、1871年から22年間、パリ市の税関(入市税関)に勤め、城門で物資の出入りを見張る仕事をしていました。1893年に退職して画業に専念しましたが、パリの城壁や郊外の風景は、その後も繰り返し描かれる題材でした。

ルソーが城壁を描いた作品は、1896年のものをはじめ、複数あります。サンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館にも、1909年に描かれた『ヴァンヴ門の左手の要塞の眺め』があり、同じ題材を扱っています。ただし、ひろしま美術館の作品と、構図が同じかどうかは、確認できていません。

見どころ|静かな夕暮れの道

画面の上半分以上を、広い空が占めています。空は、灰色がかった青緑で、ところどころに、淡い雲のむらが見えます。

左には、長い、淡い色の壁が、画面の奥へ向かって続きます。壁の向こうには、黒く、丸みを帯びた小山のような塊が並び、その後ろに、葉の少ない木々が、列をなして立っています。右にも、葉を落とした、背の高い木々が、細い枝を空へ伸ばしています。

中央では、道が、緩やかに曲がりながら、画面の奥へ伸びています。道の脇には、細い柱が二本、まっすぐ立ち、その横には、先の曲がった街灯のようなものも見えます。遠景には、淡い色の建物か塔のような形が、靄のなかに、ぼんやりと浮かんでいます。

手前の、暗い緑の丘の上を、黒い帽子をかぶり、杖を持った小さな男が、背を向けて、道を歩いています。男は、広い空と、長い壁に比べると、ひときわ小さく、孤独に見えます。

ルソーの晩年

1909年、ルソーは、ある手形詐欺事件に連座して、拘留されています。晩年は、貧困と孤独に彩られ、妻を二度亡くし、友人も少なかったと伝えられます。しかし、同じ年には、《詩人に霊感を与えるミューズ》など、代表作も描いています。

ある紹介文は、この絵を、亡くなる前年に描いた寂しい風景、と評しています。画面のなかの男を、画家自身の姿に重ねる読みも成り立ちますが、そうした解釈は、確認できる資料の範囲では、示されていません。

まとめ

《要塞の眺め》は、都市の端に立つ城壁と、そこを歩く名もない男を、淡い色調で描いた作品です。ルソーが、かつて立ち番として過ごした城門の風景は、晩年の画家の目に、どのように映っていたのか。静かな画面は、その問いを、見る者に残します。

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