パーマリンク:https://humanities.jp/rothko-orange-and-yellow/
《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》とは|ロスコが追求した色彩の絵画を徹底解説
《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》は、アメリカの画家マーク・ロスコが1956年に手がけた油彩画で、現在はアメリカ・バッファローのバッファローAKGアートミュージアム(旧オルブライト=ノックス・アートギャラリー)に所蔵されています。オレンジ色の地の上に黄色い矩形を重ねただけのシンプルな構成でありながら、見る者を包み込むような独特の存在感を放つこの作品は、色彩そのものによって感情を伝えようとしたロスコの探求の到達点の一つです。この記事では、この一見単純な絵にどのような技法と思想が込められているのかを見ていきます。
《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》とは — 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | マーク・ロスコ(1903〜1970) |
| 制作年 | 1956年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 231.2×180.4cm |
| 所蔵 | バッファローAKGアートミュージアム(ニューヨーク州バッファロー) |
| 様式 | カラーフィールド・ペインティング |
一言でいうと
《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》は、輪郭をあえてぼかした2つの色面を重ねることで、色そのものが内側から発光しているかのような感覚を生み出した作品です。ロスコにとって色彩は装飾ではなく、人間の根源的な感情を直接伝えるための手段でした。
制作背景 — なぜこの絵は生まれたのか
ラトビアからアメリカへ
ロスコは1903年、当時のロシア帝国領(現在のラトビア)ドヴィンスクに生まれ、10歳のときに家族とともにアメリカ・オレゴン州へ移住しました。イェール大学やアート・スチューデンツ・リーグで学んだのち、抽象表現主義の画家として頭角を現していきます。
マルチフォームからセクショナルへ
1940年代末、それまで具象的な要素を含んでいたロスコの絵は次第に抽象化を進めていきました。この過程で生まれたのが「マルチフォーム」と呼ばれる、輪郭の曖昧な色面が複数浮かぶ様式です。1950年代半ばになると、この様式はより整理された「セクショナル(区画分け)」と呼ばれる、いくつかの矩形の色面を積み重ねる構成へと発展していきます。《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》は、このセクショナル様式が完成の域に達した時期に制作された代表作の一つであり、ロスコはこの様式を晩年まで描き続けることになります。
見どころ徹底解説

溶け合う2つの色面
画面には、大きなオレンジ色の地の上に、暖かみのある黄色い矩形が重ねられています。両者の境界線は意図的にぼかされており、黄色い矩形が背景から独立した図形としてではなく、輝く背景の一部であるかのように溶け合って見えます。この効果を生み出すため、ロスコは絵筆や布を使い、薄く溶いた絵具を何層にも塗り重ねる手法を用いました。下層の色が上層から透けて見える「重ね塗り」の技法によって、単なる平面の色ではなく、内側から発光しているかのような輝きが画面全体に宿っています。
説明を拒む色彩
ロスコは自身の絵画を単なる色彩の配置の実験だとみなされることを強く嫌いました。彼が目指していたのは、悲劇や恍惚、宿命といった人間の根源的な感情を、具体的な形象を介さずに直接伝えることでした。《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》というそっけないタイトルも、色そのものが語るべきことを言葉で説明しすぎないための選択だったと考えられます。
至近距離で見ることを求めた画家
ロスコは自らの作品を、ごく近い距離、目安として45cmほどまで近づいて鑑賞することを望んでいたと伝えられています。大画面の色彩に全身を包み込まれるような体験こそが、彼が観客に届けたかった感覚でした。額装をできる限り避け、画面の縁までカンヴァスの生地をわずかに残す描き方も、鑑賞者と色彩とのあいだに余計な境界を作らないための工夫だったと考えられます。
実際に見るには
本作はアメリカ・ニューヨーク州バッファローのバッファローAKGアートミュージアムに所蔵されています。1956年、実業家シーモア・H・ノックス・ジュニアの寄贈によって同館のコレクションに加わりました。大画面の作品であるため、実際に間近に立って鑑賞することで、複製画像では伝わりにくい色彩の質感や奥行きをより強く体感することができます。
よくある誤解
本作はしばしば「単なる抽象的な色面の組み合わせ」として鑑賞されがちですが、ロスコ自身は自らの作品を抽象画と呼ばれることに抵抗を示していました。彼にとって色彩は装飾的な実験ではなく、悲劇や歓喜といった人間の根源的な感情そのものを伝えるための手段であり、この点を踏まえて鑑賞することで、単なる色の組み合わせ以上のものが見えてきます。
FAQ
Q. なぜ2つの色面の境界がぼやけているのですか?
薄く溶いた絵具を筆や布で何層にも重ね塗りすることで、色同士が滲むように溶け合う効果を狙っているためです。
Q. ロスコはどのような距離で鑑賞することを望んでいましたか?
目安として45cmほどの至近距離まで近づき、色彩に包み込まれるような体験をすることを望んでいたと伝えられています。
Q. 「セクショナル」とはどんな様式ですか?
1950年代半ばに完成した、いくつかの矩形の色面を積み重ねて構成する、ロスコ晩年まで続く代表的な様式です。
Q. ロスコはなぜ抽象画と呼ばれることを嫌ったのですか?
自身の作品を単なる色彩の実験ではなく、悲劇や恍惚といった人間の根源的な感情を伝える手段だと考えていたためです。
Q. この作品はどこに所蔵されていますか?
アメリカ・ニューヨーク州バッファローのバッファローAKGアートミュージアムに所蔵されています。
まとめ
《オレンジと黄色(Orange and Yellow)》は、輪郭をあえてぼかした2つの色面を重ねることで、色彩そのものに感情を語らせようとしたロスコの探求が結実した作品です。単純に見える構成の奥に、人間の根源的な感覚に直接訴えかけようとする、画家の強い意志が込められています。
