《花咲くリンゴの木》(蘭:Bloeiende appelboom)は、オランダの画家ピエト・モンドリアンが1912年に手がけた油彩画で、現在はデン・ハーグ市立美術館(クンストミュージアム・デン・ハーグ)に所蔵されています。曲線状の黒い線が幾重にも重なり合うこの作品は、一見すると何が描かれているのか判然としませんが、実は開花したリンゴの木を主題にしています。この記事では、写実的な風景画を描いていたモンドリアンが、なぜこれほど抽象的な表現へと踏み出していったのかを見ていきます。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ピエト・モンドリアン(1872〜1944) |
| 制作年 | 1912年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 78.5×107.5cm |
| 所蔵 | デン・ハーグ市立美術館(オランダ) |
| 主題 | 花咲くリンゴの木 |
一言でいうと
《花咲くリンゴの木》は、実在する木の姿を出発点にしながら、その枝ぶりを線と面の構成へと解体していく過程を示す作品です。モンドリアンがのちに到達する、水平線と垂直線だけによる純粋な抽象絵画へとつながる、重要な通過点になっています。
制作背景
写実的な風景画から始まったキャリア
モンドリアンはアムステルダムの美術アカデミーで学び、25歳ごろまでは川辺の木々や農家を描いた写実的な風景画を数多く手がけていました。その後オランダの海辺の町ドンブルグを訪れた際、画家ヤン・トーロップと出会い、塔や砂丘といった主題を作品に取り入れるようになります。
キュビスムとの出会い
1911年、アムステルダムで開催された美術展でキュビスムの作品に触れたモンドリアンは深い感銘を受け、パリへ移住する決意を固めました。1912年から1914年にかけてパリに滞在し、ピカソやブラックが提唱するキュビスムの理論に従って、事物を平面的・幾何学的な形態へと還元する試みに取り組んでいきます。
キュビスムの先を目指して
しかしモンドリアンは次第に、キュビスムが自らの発見の論理的な帰結を受け止めきれていないと感じるようになります。キュビスムが進める抽象化は、彼が究極の目標とする「純粋なリアリティ」の表現には至っていないという思いを強め、より徹底した抽象への道を模索し始めました。本作は、まさにこうした模索のさなかに生まれた、木を主題にした一連の習作の一つです。
見どころ

*oil on canvas
*78,5 x 107,5 cm
*1912
線へと還元された木の姿
画面には、灰色や淡い青、黄土色を基調とした色面の上に、黒く太い曲線が幾重にも重なり合って描かれています。中央付近には幹らしき縦の線が伸び、そこから枝分かれするように弧を描く線が四方へ広がっており、注意深く見ることで、かろうじて木の骨格を読み取ることができます。
具象と抽象のはざまで
本作は完全な抽象ではなく、あくまで「木」という具体的な対象を出発点にしています。しかしその輪郭はすでに大きく単純化され、写実的な描写からは遠く離れています。同じ1912年から1913年にかけて手がけられた《コンポジション 木々2》など、一連の樹木を主題とした作品群とあわせて見ることで、モンドリアンがどのように具象から抽象へと歩みを進めていったかをたどることができます。
その後の展開
1914年、父親の病気の知らせを受けてオランダに戻ったモンドリアンは、第一次世界大戦の勃発によりパリへ戻れなくなってしまいます。この時期にテオ・ファン・ドゥースブルフと出会ったことが大きな転機となり、1917年には雑誌『デ・ステイル』を共同で創刊し、水平線と垂直線、そして三原色と白・灰・黒だけで構成される「新造形主義」という独自の美学を確立していきました。本作に見られる木の抽象化の探求は、こうしたのちの徹底した抽象絵画へとつながる重要な布石だったといえます。
実際に見るには
本作はオランダ・デン・ハーグ市立美術館に所蔵されています。同館はモンドリアンの油彩コレクションを豊富に有しており、写実的な初期作品から本作のような過渡期の作品、さらには晩年の純粋抽象絵画まで、彼の画業の変遷を一望することができます。
よくある誤解
本作はしばしば「完全な抽象画」として紹介されがちですが、実際にはあくまで具体的な木を出発点とした習作であり、モンドリアンが具象から抽象へと至る過程の途中段階を示す作品です。晩年の格子状の抽象絵画とあわせて見ることで、この一枚がどのような発展の途上にあったのかがより鮮明に見えてきます。
FAQ
Q. 《花咲くリンゴの木》には本当に木が描かれていますか?
はい。線をたどっていくと、幹から枝が広がる木の骨格を読み取ることができます。
Q. なぜこれほど抽象的な表現になっているのですか?
キュビスムの理論を学ぶ過程で、モンドリアンがさらに徹底した抽象表現を模索し始めていた時期の作品だからです。
Q. 同じ主題の関連作品はありますか?
同じ1912年から1913年にかけて制作された《コンポジション 木々2》など、木を主題とした一連の作品があります。
Q. モンドリアンはこの後どのような画風に至りましたか?
1917年に『デ・ステイル』を創刊し、水平線と垂直線、三原色を用いた「新造形主義」と呼ばれる純粋抽象絵画を確立しました。
Q. 現在この絵はどこにありますか?
オランダのデン・ハーグ市立美術館に所蔵されています。
まとめ
《花咲くリンゴの木》は、実在する木の姿を出発点にしながら、線と面の構成へと少しずつ解体していく過程をとらえた作品です。写実から抽象へと向かうモンドリアンの歩みの途中に位置するこの一枚は、のちに彼が到達する純粋抽象絵画への重要な足がかりになっています。
