サンパウロ美術館(MASP)に、厚く塗り重ねられた絵具で顔だけが際立って描かれた肖像画がある。《ディエゴ・リベラの肖像》と題されたこの作品は、イタリア出身の画家アメデオ・モディリアーニが1914年、パリで手がけたものだ。モデルとなったのは、後にメキシコを代表する壁画家として名を馳せることになるディエゴ・リベラである。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | アメデオ・モディリアーニ(1884〜1920) |
| 制作年 | 1914年 |
| 技法・素材 | 油彩・厚紙(または板) |
| サイズ | 約100×79cm |
| 所蔵 | サンパウロ美術館(MASP、ブラジル) |
パリの前衛芸術家たちを描き続けた画家
モディリアーニはイタリア・リヴォルノのユダヤ系商家に生まれ、幼少期に胸膜炎とチフスを患ったことから、通常の学校教育を受けることができなかった。1898年に絵画を学び始め、フィレンツェとヴェネツィアでの修業を経て、1906年の冬にパリへ移り住んでいる。生涯を通じてイタリア・ルネサンス絵画、とりわけシエナ派への敬愛を持ち続けながら、パリではセザンヌの後期印象派的な絵画に強い関心を寄せた。詩人アンドレ・サルモンやマックス・ジャコブ、画家パブロ・ピカソといった人々との交流を通じて、彼は次第にパリの前衛芸術家たちの輪のなかに身を置くようになる。本作はそうした人脈のなかで生まれた1枚で、モディリアーニはリベラのほかにも、ピカソやフアン・グリス、シャイム・スーティンなど、同時代の芸術家たちの肖像を数多く手がけている。
いつもとは違う筆致で捉えられた顔
本作には、モディリアーニの作品にしばしば見られる引き伸ばされた輪郭や単純化された形態が、ほとんど見られない。代わりに、リベラの顔には厚みのある絵具が重ねられ、画面のなかで最も緻密に描き込まれた部分となっている。顔から離れるにつれて筆致は次第に緩やかになり、輪郭もあいまいになっていく。モデルとなったリベラは、どこか面白がるような表情で画家の前に座っていたのではないかとも言われており、素早い筆致でその姿を捉えようとした様子がうかがえる。
見どころ

厚塗りで浮かび上がる顔の質感
画面中央、リベラの丸みを帯びた顔には、絵具が幾重にも塗り重ねられ、ざらついた質感が生まれている。この重厚な筆致が、周囲の淡く溶けるような背景と強い対比をなしている。
半ば閉じられた瞑想的な眼差し
リベラの目は完全には開かれておらず、どこか内省的で落ち着いた表情を浮かべている。わずかに傾いた頭の角度が、この静けさをいっそう際立たせている。
深い紫と黒に沈む背景
画面の大部分を占める背景は、深い紫と黒を基調とした暗い色調で塗られている。この暗さが、明るく浮かび上がる顔の存在感を、いっそう強く印象づけている。
曖昧なまま残された輪郭
顔以外の部分、とりわけ肩や背景は、意図的に不明瞭なまま描かれている。この対比によって、鑑賞者の視線は自然とリベラの表情だけに引き寄せられていく。
実際に見るには
本作はブラジル・サンパウロ美術館(MASP)に所蔵されている。モディリアーニが手がけた他の同時代芸術家たちの肖像画とあわせて見ることで、彼がそれぞれのモデルの個性に応じて、いかに柔軟に画風を変化させていたかがうかがえる。
FAQ
Q. 《ディエゴ・リベラの肖像》はどこで見られますか?
ブラジルのサンパウロ美術館(MASP)に所蔵されている。
Q. モデルのディエゴ・リベラとは誰ですか?
後にメキシコを代表する壁画家として知られることになる人物で、当時パリに滞在していた。
Q. なぜこの絵はモディリアーニらしくないと言われるのですか?
彼の特徴である引き伸ばされた輪郭や単純化された形態がほとんど見られず、代わりに厚塗りの筆致が用いられているためである。
Q. モディリアーニは他にどんな芸術家の肖像を描いていますか?
ピカソやフアン・グリス、マックス・ジャコブ、シャイム・スーティンなど、同時代の芸術家たちの肖像を数多く手がけている。
まとめ
《ディエゴ・リベラの肖像》は、モディリアーニがいつもの様式をあえて崩し、モデルの個性に応じて筆致そのものを変化させた1枚だ。厚く塗り重ねられた顔と、曖昧なまま溶けていく背景との対比を見つめていると、後に壁画という巨大な画面で名を成すことになる若きリベラの、内に秘めた集中力のようなものが伝わってくる。
