《バーバ・ヤガー》とは|ロシア民話の「森の魔女」を象徴的に描いた挿絵を徹底解説

《バーバ・ヤガー》(1900年)は、ロシアの挿絵画家イワン・ビリビンによる作品で、ロシア民話『美しいワシリーサ』の挿絵連作の一枚です。深い森を大きな杖をつきながら進む、白髪を振り乱した老婆——スラヴ民間伝承の中でも最も謎めいた存在の一人「バーバ・ヤガー」を、ビリビンは恐ろしさと魅惑を同居させた、独自の視覚表現で描き出しました。

目次

基本情報

項目内容
作者イワン・ビリビン(1876〜1942)
制作年1900年
様式アール・ヌーヴォー(ミール・イスクーストヴァ「芸術世界」運動)
連作『美しいワシリーサ』挿絵連作
出典アレクサンドル・アファナーシエフ編『ロシア民話集』(1855〜63年刊)

一言でいうと
《バーバ・ヤガー》は、スラヴ民間伝承に伝わる森の老婆を、恐怖と敬意の両方を湛えた存在として描き出すことで、ビリビンをはじめとする19〜20世紀の画家たちが、口承のみで伝わってきたこの謎めいた人物像を、視覚的に決定づけていく過程の重要な一枚である。

制作背景

この作品は、19世紀の民俗学者アレクサンドル・アファナーシエフが、スラヴの農民たちの間で何世代にもわたって語り継がれてきた口承の物語を収集・記録した『ロシア民話集』の一編、『美しいワシリーサ』のために制作された挿絵です。ビリビンによるこの新しい挿絵版は、帝政末期のロシアにおいて、国の文化的遺産を促進する目的で、国営印刷所によって制作されました。

見どころ

構図

画面には、鬱蒼とした森の中を、大きな木の杖を頼りに歩みを進めるバーバ・ヤガーの姿が描かれています。白い髪が風になびき、その表情には鋭さと威厳が同居しています。足元には毒々しい赤い傘のキノコが点在し、この森が魔法にかけられた危険な場所であることを暗示しています。傍らの木には、彼女の象徴である箒も掛けられています。

技法

ビリビンは、装飾的な縁取り文様と、伝統的なロシアの民俗模様を組み合わせた、アール・ヌーヴォー様式を確立しました。土色を基調としながら、衣装の赤と金の差し色が、鑑賞者の視線を主人公へと導いています。

図像学

民俗学者ウラジーミル・プロップの指摘によれば、バーバ・ヤガーの描写は物語によって一貫性を欠いており、確定した単一のイメージは存在しません。しかし、深い森に住み、鶏の脚の上に建つ小屋、「骨の脚」「鉄の歯」といった異名など、いくつかの核心的な特徴は共通しています。興味深いことに、民間伝承の文字記録においては、彼女が臼に乗って空を飛ぶという特徴よりも、むしろ「鼻が天井まで伸び、歯は棚の上、片方の足は部屋の隅に」といった、身体的な異形さの描写の方が、実はより一般的だったと指摘されています。「臼に乗り、杵で漕ぎ、箒で足跡を消しながら飛ぶ魔女」という、今日誰もが思い浮かべるイメージは、19〜20世紀の画家たち——ビリビンや、より広く知られることになるヴィクトル・ヴァスネツォフら——が、視覚芸術を通じて作り上げていったものなのです。

『美しいワシリーサ』の物語

この絵の題材となった物語では、継母と義理の姉たちに虐げられた孤児ワシリーサが、火種を求めてバーバ・ヤガーの小屋へと送り込まれます。亡き母から託された魔法の人形の助けを借りて、ワシリーサはバーバ・ヤガーが課す数々の試練を乗り越え、頭蓋骨の中に灯った炎を授かって帰還し、その炎が意地悪な継母たちを焼き尽くすという結末を迎えます。バーバ・ヤガーは、こうした物語の中で、道徳的な強さを試す存在として——未熟な者を食らい、清らかな心を持つ者には力を貸す——両義的な役割を担っています。

評価と影響

ビリビンは、帝室美術アカデミーで学び、「芸術世界」運動の中心人物として、急速な社会変動の時代にあったロシアにおいて、民俗物語の視覚的な継承と復興に大きく貢献しました。この《バーバ・ヤガー》をはじめとする挿絵連作は、単なる物語の再現を超えて、ロシアの民俗文化そのものを、より広い読者へと届ける役割を果たしました。

よくある誤解

誤解①「バーバ・ヤガーは必ず臼に乗って空を飛ぶ姿で描かれる」→ 実際は民間伝承において、この特徴は必ずしも中心的ではない

「臼に乗る魔女」というイメージがあまりに定着しているため、これが彼女の本質的な特徴だと思われがちですが、実際の文字記録された民話では、身体の異形さの描写の方がより頻繁に見られ、多くの物語で彼女は単に歩いて移動しています。この絵に描かれた「杖をついて歩く姿」も、そうした側面を反映しています。

誤解②「バーバ・ヤガーは単なる邪悪な悪役である」→ 実際は恐怖と助力を併せ持つ両義的な存在である

「子供を食べる魔女」というイメージから、単純な悪役だと思われがちですが、実際の民話における彼女は、清らかな心を持つ主人公には力を貸すこともある、より複雑で両義的な存在として描かれています。

FAQ

Q. 《バーバ・ヤガー》とはどんな作品ですか?
A. ビリビンが1900年に手がけた、ロシア民話『美しいワシリーサ』の挿絵です。深い森を歩くバーバ・ヤガーの姿を描いています。

Q. バーバ・ヤガーとは何者ですか?
A. スラヴ民間伝承に登場する超自然的な老婆で、恐怖と知恵の両方を体現する存在です。深い森の小屋に住み、清らかな心を持つ者を助ける一方、未熟な者を罰する、両義的な役割を担っています。

Q. なぜバーバ・ヤガーは臼に乗って飛ぶイメージが有名なのですか?
A. 実は民間伝承の文字記録では身体的な異形さの描写の方が一般的でしたが、19〜20世紀の画家たちが視覚表現を通じて「臼に乗って飛ぶ魔女」というイメージを定着させていきました。

Q. この絵はどの物語のための挿絵ですか?
A. 継母に虐げられた孤児ワシリーサが、バーバ・ヤガーの試練を乗り越えるという物語『美しいワシリーサ』のための挿絵です。

まとめ

《バーバ・ヤガー》は、スラヴ民間伝承に伝わる森の老婆を、恐怖と敬意の両方を湛えた存在として描き出すことで、ビリビンをはじめとする19〜20世紀の画家たちが、口承のみで伝わってきたこの謎めいた人物像を、視覚的に決定づけていく過程の重要な一枚です。アール・ヌーヴォー様式と伝統的なロシアの民俗美術を融合させたビリビンの筆致は、100年以上を経た今もなお、この永遠に謎めいた存在の魅力を、鮮やかに伝え続けています。

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