《白い靴下の女》(1864年)は、フランス写実主義の創始者ギュスターヴ・クールベによる裸婦画で、フィラデルフィアのバーンズ財団が所蔵する作品です。木陰に横たわる女性が、片脚に履いた白い靴下を留めようとしている、あるいは脱ごうとしている一瞬をとらえています。この記事では、この絵がなぜ19世紀のうちに一度も展示されなかったのか、そしてクールベの他の裸婦画とどうつながるのかを解説します。
《白い靴下の女》とは|基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ギュスターヴ・クールベ |
| 制作年 | 1864年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 65×81cm |
| 所蔵 | バーンズ財団(フィラデルフィア)、収蔵番号BF810 |
| ジャンル | 裸婦画 |
| モチーフ | 川辺で靴下を身につける女性 |
一言でいうと 《白い靴下の女》は、神話や物語の衣をまとわずに裸体をそのまま描き出した、クールベが手がけた最初の官能的な裸婦画であり、公にではなく個人の楽しみのために描かれたと考えられている作品である。
制作背景|なぜこの作品は生まれたのか
「天使を見せてくれ」の画家
ギュスターヴ・クールベは1819年、フランス東部オルナンに生まれました。ロマン主義やアカデミズムに反発し、目に見えるものだけを描く写実主義を掲げた画家です。「天使を描けというなら、まず天使を見せてくれ」という言葉に象徴されるように、理想化を拒み、同時代の現実をそのまま描くことにこだわりました。1855年のパリ万国博覧会では、大作《オルナンの埋葬》などが落選したことに抗議し、会場のすぐそばに自費で小屋を建てて個展を開催、世界初の画家個人による展覧会として知られる「レアリスム館」を開いています。
公に展示されなかった一枚
《白い靴下の女》は、19世紀のうちに一度も展示された記録がなく、所有の経緯も長らく不明でした。自筆の書き込みによれば、クールベが友人ピエール゠オーギュスト・ファジョンに贈った作品とされ、その後、美術商アンリ・バルバザンジュを経て、1926年に収集家アルバート・バーンズが購入しています。展示を前提とせず、私的な楽しみのために制作された可能性が高い作品です。
見どころ徹底解説

画面の中心に置かれた身体
木陰を背に、川辺の斜面に体を預けて座る女性が、画面いっぱいに大きく描かれています。片脚には白い靴下、足には赤い靴が残されており、脱ぎかけの下着とともに、彼女がまさに身支度をしている、あるいは脱ぎ終えたばかりの一瞬が切り取られています。
誘うようなまなざし
女性は正面のこちらではなく、画面の外、おそらく向かい合う何者かに向けて視線を送っています。この視線の先にいる人物の存在をほのめかす構図が、単なる裸体表現を超えた物語性をこの絵に与えています。
娼婦を思わせる周辺のヒント
背景には脱ぎ捨てられたように衣類が置かれ、当時の娼館で撮影されていたポルノグラフィー的な写真を思わせる構図が指摘されています。実際にクールベはそうした写真を収集していたことが知られており、本作の題材選びにもその影響が及んでいるとする見方があります。
評価と影響
本作は、クールベが同じ10年のうちに手がける《眠り》(1866年)や《世界の起源》(1866年)といった、より直接的に性を扱った作品群の先駆けに位置づけられています。これらのうち《眠り》と《世界の起源》はトルコの外交官ハリル・ベイの依頼で制作されたことが分かっていますが、本作の依頼主は明らかになっていません。1968年には現代美術家マルセル・デュシャンが、本作を含むクールベ作品を題材にした銅版画連作《クールベによる抜粋》を制作しており、20世紀のアーティストにも影響を与え続けています。
実際に見るには
フィラデルフィアのバーンズ財団の所蔵作品です(収蔵番号BF810)。同財団はクールベをはじめとする近代絵画の充実したコレクションで知られ、独自の展示方法でも知られています。訪問前には開館日・展示状況を公式サイトで確認することをおすすめします。
よくある誤解
誤解①「モデルはクールベの愛人レオンティーヌ・ルノー」→ 年代が合わず可能性は低いとされる
本作のモデルについて、クールベの愛人であったレオンティーヌ・ルノーではないかという推測がなされることがあります。しかしクールベがルノーとの関係を終えたのは1862年、本作が完成する2年前とされており、この推測には無理があると考えられています。
誤解②「サロンに出品され、物議を醸した」→ 19世紀には一度も公開されていない
クールベの裸婦画というと、サロンでの落選や論争を連想しがちですが、本作は19世紀のうちに展示された記録が一切ありません。個人的な依頼のもとで制作され、公の場に出ることなく所有者の手を渡り歩いた作品です。
FAQ
Q. 何が描かれていますか?
A. 川辺の木陰で、片脚に白い靴下と赤い靴を身につけた女性が、画面の外に視線を送っている場面です。
Q. 作者はどんな画家ですか?
A. ギュスターヴ・クールベ(1819〜1877)。フランス写実主義の創始者で、理想化を排し、目に見える現実をそのまま描くことを主張した画家です。
Q. なぜ展示されなかったのですか?
A. 私的な依頼のもとで制作された可能性が高く、公の展覧会に出品する目的で描かれた作品ではなかったためと考えられています。
Q. どこで見られますか?
A. アメリカ・フィラデルフィアのバーンズ財団です。訪問前に公式サイトで開館状況を確認することをおすすめします。
まとめ
《白い靴下の女》は、写実主義を掲げたクールベが、公の理念とは別に手がけた私的な裸婦画です。展示されることを前提とせずに描かれたからこそ残る率直さが、のちの《眠り》や《世界の起源》へとつながる道筋を、この一枚の中にすでに示しています。
