フランツ・フォン・シュトゥック《女をめぐる戦い》とは|闇のなかで向き合う二人の男と、冷ややかに立つ女

《女をめぐる戦い》(1905年)は、ミュンヘンの画家フランツ・フォン・シュトゥックが描いた、板絵の油彩画です。暗い丘を背に、裸の男が二人、獣のように身構えて向き合い、その右には、白い肌の裸の女が、腰に手を当てて立っています。男たちの肉体の緊張と、女の冷ややかな横顔の対比が、見る者に強い印象を残します。

基本情報

作者はフランツ・フォン・シュトゥック(1863〜1928)、制作年は1905年です。技法は板に描いた油彩で、サイズは縦90×横117cm。ロシアのサンクトペテルブルクにある、エルミタージュ美術館に所蔵されています。原題は「Der Kampf ums Weib」で、英題は「Fighting for a Woman」「The Struggle for Woman」などです。署名と年は、画面の右下に、白い文字で、「FRANZ STUCK 1905」と入っています。

画家について

シュトゥックは、1863年にバイエルンで生まれ、ミュンヘンで画家として名を上げました。1892年に、ミュンヘン分離派の創設に参加し、1895年には、美術アカデミーの教授となっています。神話や寓意に取材した絵画のほか、罪とエロティシズムを主題にした作品で知られ、「芸術の王様」とも呼ばれました。

ドイツの人名辞典は、シュトゥックの主題が、男女の闘争をめぐり、衝動的で暴力的な女性への、男の恐れを映すものだと説明しています。徳と罪、美と誘惑の対立も、その主題の一つで、古代のディオニュソス的な側面を重んじた、ニーチェの見方を共有していたとも指摘されます。

見どころ|二人の男と、一人の女

画面の左と中央には、裸の男が二人、腰を低くし、腕を広げて、向き合っています。左の男は、髭を生やした大柄な体つきで、口を開き、歯をむいて、拳を握りしめています。中央の男は、細身で、背中をこちらへ向け、前かがみになって、相手に飛びかかろうとする姿勢です。二人の筋肉や骨の浮き出た体は、暗い茶と黄土色で塗られ、光が当たる部分だけが、金色に浮かび上がります。

右側には、赤い髪の裸の女が、画面の外へ視線をそらし、腰に両手を当てて、まっすぐに立っています。肌は、男たちとは対照的に、青白く、冷たい光をまとっているようです。彼女の目は、すぐそばで争う男たちには向けられていません。

背景は、黒に近い丘で、その上に、青空が細い帯のようにのぞき、雲が浮かんでいます。足もとは、白っぽい石の地面で、人物の長い影と、水たまりのような暗い部分が見えます。

見どころ|暗い画面と、白い肌

この絵の印象を決めているのは、暗い背景と、女の白い肌の対比です。男たちは、背景の闇に溶け込むような色で描かれ、戦いの粗野さと、肉体の重さを感じさせます。それに対し、女は、同じ画面の外から差し込む光に、独りだけ照らされているように見えます。

アメリカのウェブ・ギャラリー・オブ・アートは、20世紀に入ったあとのシュトゥックの絵が、絵具の扱いをより抑制し、構図の対称性を強めたと述べています。本作も、三人を横一列に並べ、闘う男たちと、傍観する女を、明確に分ける構成です。

制作の背景|写真を使った制作

シュトゥックは、制作のもとにする資料として、写真を用いたことで知られます。ウィキペディアは、シュトゥックが、本作のために、写真家の前で、おそらく妻のメアリーとともに、闘う男の一人としてポーズを取ったと記しています。画家自身が、画面のなかの一人を演じていた可能性があるわけです。

人物の体を、実際の写真から起こしたことが、画面の生々しい肉体表現につながっていると考えられます。ドイツの人名辞典も、シュトゥックの絵の最良のものは、ほとんど写真のような再現によって、新即物主義に近づくと評しています。

受容と来歴

シュトゥックが描いた、裸の男女の姿は、当時のドイツの、生真面目な道徳観のなかで、並外れて強い反響を呼んだ、とドイツ語版ウィキペディアは説明しています。同じ主題には、複数の版があるとされています。

エルミタージュ美術館の記録によると、この作品は、もともとモスクワの収集家ミハイル・リャブシンスキーのコレクションにありました。のちに、モスクワのプーシキン美術館を経て、1925年に新西洋美術館に移り、1948年に、エルミタージュ美術館に入っています。

まとめ

《女をめぐる戦い》は、男たちの争いと、それを遠く見つめる女を、闇と光の対比で描いた、象徴主義の作品です。誰が勝つのかではなく、争いを引き起こした当の女が、どこを見ているのか。その問いが、画面の中心に置かれています。

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