《金髪の女》とは|花柄の中に置き去られたオランピアの末裔

《金髪の女》(1919年)は、フォーヴィスムの画家として出発したアルベール・マルケによる裸婦画で、ル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館(ポンピドゥー・センター所蔵、長期貸与中)が収める作品です。あぐらをかいて座る女性の裸体を、花柄に埋め尽くされた背景が四方から取り囲んでいます。この記事では、風景画家として知られるマルケがなぜこの一枚を最後に裸婦を描かなくなったのか、その背景を解説します。

《金髪の女》とは|基本情報

項目内容
作者アルベール・マルケ
制作年1919年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ98.5×98.5cm
所蔵国立近代美術館(ポンピドゥー・センター、パリ)
ジャンル裸婦画
モチーフあぐらをかいて座る女性の裸体

一言でいうと 《金髪の女》は、生涯のほとんどを風景画家として過ごしたマルケが最後に描いた裸婦であり、マネの《オランピア》の系譜を静かに受け継いだ一枚である。

制作背景|なぜこの作品は生まれたのか

風景画家の裸婦

マルケは1875年生まれ、マティスやカミュアンとともにフォーヴィスムの画家として出発しましたが、その画業の大半はセーヌ川やマルセイユ港など水辺の風景画で占められています。生涯に残した裸婦画は20点に満たず、その中でも二つの山があるとされています。ひとつは1905年前後、フォーヴィスム期にアトリエで立たせたモデルを描いた一群、もうひとつは1912〜13年、娼館で出会った女性たちを花柄の長椅子に横たえて描いた一群です。《金髪の女》はこの二度目の山からさらに数年を経て、1919年に描かれたおそらく最後の裸婦画とされています。

結婚が閉じた画題

マルケは1920年にアルジェでマルセル・マルティネと出会い、1923年に結婚しました。この結婚を境に、裸婦という画題そのものが彼の作品から姿を消したとされています。《金髪の女》は、その最後の扉が閉じる直前に描かれた一枚ということになります。

見どころ徹底解説

埋め尽くす花柄

背景を覆う赤い花々の柄は、マルケが1912〜13年の娼婦を描いた連作でしばしば用いていた花柄の長椅子を思わせます。本作ではその柄が壁全体、さらには女性が座る敷物にまで広がり、モデルの体を四方から包み込んでいます。研究者はこの花柄を、当時の連作への郷愁が呼び戻したモチーフではないかと指摘しています。

塑像のような肉づけ

マルケの本領は、水面や空の揺らぎを捉える速く優美な線描と、水彩のように透明な絵肌にあるとされています。しかし本作の肌の質感は対照的に、厚く重く、粒立った絵具の層でつくられています。この重厚な肉づけは、彫刻家が粘土を積み重ねて形を起こす手つきに近いとも評され、マルケの他の作品にはあまり見られない描き方です。

うつろな眼差しの系譜

頬杖もつかず、まっすぐこちらを見る女性の視線は、どこか遠くを見るようにうつろです。ある研究では、この視線と、首にかけられた細い紐状の首飾りが、マネの《オランピア》(1863年)の面影を強く宿していると指摘されています。世代を超えて受け継がれたかのようなこの首飾りは、《金髪の女》をオランピアの末裔として位置づける手がかりになっています。

評価と影響

本作はマルケの作品の中でも、正方形かつ大判という点で特異な位置を占めています。マルケが手がけた大画面の作品は、1931年にパリの自宅の浴室に施したタイル装飾を除けばほとんど例がなく、本作はその数少ない例外のひとつです。美術史家ディディエ・シュルマンは、この絵を、マルケが最終的に水辺の風景画へと定住していく中で、オランピアが切り開いた近代性への自らの根を静かに示す一種の宣言として読み解いています。1939年にオリヴィエ・センによってポンピドゥー・センターの前身にあたる国立近代美術館に寄贈されました。

実際に見るには

作品はパリの国立近代美術館(ポンピドゥー・センター)の所蔵品ですが、現在はル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館(MuMa)へ長期貸与されており、2030年頃まで同館で展示される予定です。訪問前には最新の展示状況を各館の公式サイトで確認することをおすすめします。

よくある誤解

誤解①「マルケは裸婦を数多く描いた画家」→ 生涯を通じてごく少数にとどまる

マルケという名前を聞くと本作のような裸婦画を思い浮かべる人もいますが、実際に油彩で残された裸婦画は生涯で20点に満たないとされています。マルケの画業の核はあくまで水辺の風景画にあり、裸婦は限られた時期に集中して描かれた例外的な画題です。

誤解②「1912〜13年の連作の一枚」→ それより後、連作の記憶を呼び戻した独立作

花柄の背景から、1912〜13年に娼婦を描いた連作の一枚と誤解されることがありますが、実際の制作は1919年で、連作からは数年隔たっています。連作そのものというより、その記憶を呼び戻すようにして描かれた、独立した一枚と考えられています。

FAQ

Q. 何が描かれていますか?
A. 花柄で埋め尽くされた背景の前で、あぐらをかいて座る金髪の女性の裸体です。

Q. 作者はどんな画家ですか?
A. アルベール・マルケ(1875〜1947)。フォーヴィスムの画家として出発し、生涯の大半をセーヌ川やマルセイユ港などの水辺の風景を描くことに費やしたフランスの画家です。

Q. なぜこれが最後の裸婦画とされているのですか?
A. 1920年に出会ったマルセル・マルティネと1923年に結婚したのち、マルケは裸婦という画題自体を描かなくなったとされているためです。

Q. どこで見られますか?
A. パリの国立近代美術館(ポンピドゥー・センター)の所蔵品ですが、現在はル・アーヴルのアンドレ・マルロー美術館に貸与展示されています。訪問前に各館の公式サイトで確認することをおすすめします。

まとめ

《金髪の女》は、風景画家としてのマルケがほとんど描かなかった裸婦という画題の、いわば最後の証言となった一枚です。厚く盛られた絵肌とうつろな眼差しの奥に、オランピア以来の近代の裸婦像がどのように受け継がれてきたかを読み取ることができます。

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