シャルパンティエ夫人とその子どもたちとは|ルノワールを貧困から救った1枚
2026
7/30
美術
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ニューヨークのメトロポリタン美術館に、日本趣味の応接間で母子3人が寛ぐ様子を描いた大作がある。《シャルパンティエ夫人とその子どもたち(仏:Madame Georges Charpentier et ses enfants)》と題されたこの絵は、1878年にピエール=オーギュスト・ルノワールが手がけたものだ。これはただの家族の肖像画ではない。困窮していた1人の画家が、社交界の扉をこじ開けるきっかけとなった1枚でもある。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841〜1919) |
| 制作年 | 1878年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 153.7×190.2cm |
| 所蔵 | メトロポリタン美術館(ニューヨーク) |
出版王の妻が開いたサロンという扉
依頼主はパリの著名な出版業者、ジョルジュ・シャルパンティエ。彼はルノワールの初期からの支援者として知られ、この肖像画のために1000フランを支払ったと記録されている。描かれているのは彼の妻マルグリット・ルモニエと、娘ジョルジェット(当時6歳)、そして息子ポール=エミール=シャルル(当時3歳)だ。3歳の息子はまだ髪を切らず、当時の慣習に従って姉と同じ装いをまとい、家族の飼っていた大型犬にまたがるジョルジェットの傍らに立っている。
マルグリットは単なる出版業者の妻ではなかった。毎週金曜日に自邸でサロンを開き、フローベール、ゴンクール兄弟、ゾラといった当代一流の文人たちを招いていた人物であり、印象派の画家たちを早くから支援していたことでも知られている。ルノワールとマネはこのサロンに招かれた画家だったが、なかでもルノワールは彼女のお気に入りとなった。
印象派展を蹴って、あえて官展へ
1879年、ルノワールはこの絵を、女優ジャンヌ・サマリーの肖像とあわせて公式のサロン(官展)に出品することを選んだ。同じ年に開かれた第4回印象派展には参加していない。当時のルノワールにとって、これは生活の困窮から抜け出すための、いわば計算された賭けだった。
そしてこの賭けは的中する。マルグリットは自らの人脈を駆使し、この絵がサロン会場のなかでも目立つ場所に飾られるよう手を回した。結果、この絵は絶賛をもって迎えられ、画家カミーユ・ピサロは手紙のなかで、ルノワールがサロンで大きな成功を収め、名声を確立したと書き残している。作家マルセル・プルーストもこの絵に触れ、その大河小説のなかで言及するほどの評判を呼んだ。この成功を境に、ルノワールのもとには裕福な依頼主からの肖像画の注文が相次ぐようになり、長年の経済的な苦境から解放されることになった。
見どころ

孔雀が描かれた背景の屏風
画面左手の壁には、孔雀や鳥たちを描いた日本趣味の屏風が飾られている。当時パリの上流階級を席巻していたジャポニスムの流行が、この室内装飾にそのまま反映されている。
犬にまたがる娘と、寄り添う息子
手前には、家族の飼い犬に腰掛ける娘ジョルジェットと、母のかたわらに立つ息子ポールの姿がある。まだ幼い息子が姉と同じ装いをしているのは、当時のブルジョワ家庭に共通した慣習だった。
テーブルの上の静物
画面右手の小さなテーブルには、果物や花瓶、グラス類が置かれている。とりわけグラスに映り込む光の描写は、この絵のなかでもルノワールの筆致がひときわ冴えわたる部分とされている。
室内を分かつ黒いドレス
マルグリットがまとう黒いドレスは、画面を大きく2つに切り分けるような役割を果たしている。この装いの黒さが、背後の静物や調度の華やかさと対比をなし、彼女自身の落ち着いた社会的地位を静かに物語っている。
実際に見るには
本作はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている。ルノワールはシャルパンティエ家のために合計6点ほどの肖像画を手がけたとされ、その依頼の多さから、彼自身が冗談交じりに「一家お抱えの画家」になったと語ったと伝えられている。
FAQ
Q. 《シャルパンティエ夫人とその子どもたち》はどこで見られますか?
ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている。
Q. なぜルノワールはこの絵を印象派展ではなく官展に出品したのですか?
当時経済的に困窮していたルノワールが、より広い支持層に届く公式サロンでの成功を狙った、戦略的な判断だったとされている。
Q. シャルパンティエ夫人とはどんな人物でしたか?
著名な出版業者の妻で、文人や芸術家を招く人気のサロンを主催し、印象派の画家たちを早くから支援していた人物である。
Q. この絵はルノワールにとってどんな意味を持っていましたか?
サロンでの成功が裕福な依頼主からの注文につながり、長年の経済的苦境から抜け出す転機になったとされている。
Q. 背景の屏風にはどんな意味がありますか?
当時パリの上流階級で流行していた日本趣味(ジャポニスム)を反映した室内装飾である。
まとめ
《シャルパンティエ夫人とその子どもたち》は、単なる裕福な一家の記念写真のような肖像画ではない。画家としての生き残りを賭けた1つの決断が、結果として大きな実を結んだ瞬間の記録でもある。マルグリットが自ら人脈を動かしてこの絵に良い展示場所を用意したという経緯を知ってから見返すと、画面の穏やかな家族の情景の裏に、したたかな戦略が透けて見えてくる。
