《クッカムの復活(英:The Resurrection, Cookham)》は、イギリスの画家スタンリー・スペンサーが1924年から1927年にかけて手がけた油彩画で、現在はロンドンのテート・ブリテンに所蔵されている。故郷クッカムの教会墓地を舞台に、墓から蘇る人々を描いたこの絵は、スペンサーの代表作として広く知られている。今回はこの絵の舞台となったクッカムという村と、蘇りの光景に込められた画家自身の日常への眼差しについて見ていく。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | スタンリー・スペンサー(1891〜1959) |
| 制作年 | 1924〜1927年 |
| 技法・素材 | 油彩・カンヴァス |
| サイズ | 274.3×548.6cm |
| 所蔵 | テート・ブリテン(ロンドン) |
一言でいうと
墓から蘇った人々が向かう先は、天上の楽園ではなく、見慣れた故郷の教会墓地そのもの。壮大な宗教的主題を、隣人たちの何気ない日常の仕草によって描いてしまう。スペンサーが故郷クッカムに見出した、ごく身近な楽園の姿。
制作背景
「天国にある村」クッカム
舞台となっているのは、テムズ川沿いのバークシャー州にある小さな村クッカムである。スペンサーはこの村で生まれ育ち、生涯を通じてクッカムを繰り返し作品の主題とした画家として知られている。彼はこの村を「天国にある1つの村」と表現したと伝えられており、本作はその考えを最も直接的に形にした1枚といえる。
1913年の先行作から
スペンサーはこれ以前にも、「善人と悪人の復活」という主題を《善人と悪人の復活(1913年)》という作品で扱っている。この初期作についてスペンサー自身は、悪人への罰とはすなわち、善人ほど容易には墓から出てこられないことだと語ったとされる。本作《クッカムの復活》は、この主題をさらに発展させ、より身近で親密な光景として描き直したものである。
下から見上げる構図として
この絵の構図は、下から見上げられることを前提に考案されたとされる。実際、テートでは長年にわたり、この絵をレストランやトイレへ続く階段の上に掲げ、鑑賞者が下から見上げるという空間的な体験を再現していたと伝えられている。
家族や隣人たちの姿
画面には、神とキリストが教会のポーチから見守るなか、預言者モーゼをはじめとする聖書上の人物たちと並んで、スペンサー自身の友人や隣人、家族の姿が描き込まれている。スペンサー本人もポーチの下に裸体で横たわる姿として登場しており、当時婚約者だった最初の妻ヒルダも、画面内に3度にわたって描かれている。
白人と黒人が並ぶ普遍性
画面に登場する人物たちには、白人だけでなく黒人の姿も描き込まれている。これは特定の民族や地域に限定されない、より普遍的な蘇りの光景として本作を成立させるための構成であったとされる。
見どころ

墓石から這い出す人々
画面各所には、墓から身を起こし、墓石の陰から這い出そうとする人々の姿が描かれている。壮大な奇跡であるはずのこの光景が、むしろぎこちなく、どこか生々しい身体の動きとして表現されている点が本作の特徴である。
互いの服の埃を払い合う仕草
画面には、蘇った人々が互いの服についた土埃を払い合う、ごく親密な仕草が繰り返し描かれている。スペンサーはこの仕草について、母親が父親をロンドンへの外出前に身支度させていた記憶と結びつけていたと語っている。
花に覆われた教会のポーチ
画面中央、教会のポーチの上には白い花々が豊かに垂れ下がっている。この花の広がりが、蘇りという出来事の恐ろしさよりも、むしろ祝祭的な華やかさを画面全体に与えている。
銀灰色に沈む光の色調
画面全体は、灰色やラベンダー、淡い緑を基調とした、透き通るような色調で統一されている。この抑えた色彩が、月光を強めたような、現実と夢の境界が曖昧な世界を作り出している。
実際に見るには
本作はロンドンのテート・ブリテンに所蔵されている。スペンサーが故郷クッカムを主題として手がけた他の作品群は、クッカム村内にあるスタンリー・スペンサー・ギャラリーにまとまった収蔵があり、彼がこの村に見出し続けた楽園のイメージをより深く知ることができる。
よくある誤解
この絵はしばしば「荘厳で恐ろしい最後の審判の光景」として鑑賞されがちだが、スペンサー自身はこれを至福の光景として意図していたとされる。実際には、蘇った人々が互いの埃を払い合ったり、墓石の上でくつろいだりといった、ごく日常的で親密な仕草に満ちている。壮大な終末論としてではなく、故郷の隣人たちが変わらぬ姿のまま楽園に迎え入れられる、親しみに満ちた光景として見ることで、この絵の本来の意図がより見えてくる。
FAQ
Q. 《クッカムの復活》はどこで見られますか?
ロンドンのテート・ブリテンに所蔵されている。
Q. クッカムとはどんな場所ですか?
テムズ川沿いのバークシャー州にある村で、スペンサーの故郷である。
Q. この絵にはどんな人物が描かれていますか?
神とキリスト、預言者モーゼといった聖書上の人物に加え、スペンサー自身や妻ヒルダ、友人や隣人たちが描かれている。
Q. なぜ日常的な仕草が多く描かれているのですか?
スペンサーが、母親が父親の身支度をしていた記憶などの個人的な体験を、蘇りという主題に重ね合わせて描いたためとされる。
Q. この絵の構図には何か工夫がありますか?
下から見上げられることを想定して構成されており、テートでは実際に階段の上に掲げて展示されていた時期がある。
まとめ
《クッカムの復活》は、壮大な宗教的主題を、故郷の隣人たちの何気ない日常の仕草によって描き直した1枚だ。互いの埃を払い合う蘇った人々の姿には、スペンサーが生涯を通じてクッカムという村に見出し続けた、ごく身近な楽園への確かな眼差しが息づいている。
