《出会い》とは|イッテンがバウハウス以前に描いた色彩の予兆

《出会い(独:Die Begegnung、英:The Encounter/The Meeting)》は、スイスの画家ヨハネス・イッテンが1916年に手がけた油彩画で、チューリヒ美術館に貸与されている。人物像を思わせる形態と、渦を巻く色彩の螺旋を組み合わせたこの絵は、バウハウス創設の3年前に描かれたにもかかわらず、後にイッテンが色彩理論の巨匠として名を馳せることになる、その萌芽をすでに宿している。今回はこの絵が生まれた背景と、彼が生涯をかけて追求した色彩理論との関係について見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者ヨハネス・イッテン(1888〜1967)
制作年1916年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約105×80cm
所蔵チューリヒ美術館(貸与)
様式表現主義

一言でいうと

人物の輪郭のなかに、色彩の渦がそのまま吸い込まれていく。バウハウス設立以前に描かれたこの絵には、円・正方形・螺旋という幾何学的形態と光と影の対比、そして色彩の展開という、のちのバウハウスの造形理念がすでに凝縮されている。

制作背景

色彩理論家アドルフ・ヘルツェルとの出会い

イッテンは1913年から16年にかけて、シュトゥットガルト美術アカデミーで学び、抽象絵画と色彩理論の先駆者アドルフ・ヘルツェルのもとで師事した。ヘルツェルの指導は、自然の形態を分析的に描くこと、色彩の調和と対比を体系的に探求すること、そしてリズミカルで動的な構成を生み出すことに重点を置いており、こうした教えがイッテンの造形的な基礎を大きく形作った。この時期はイッテンが、具象的な表現からより抽象的な表現主義へと移行していった転換点にあたる。

デア・シュトゥルムでの初個展

1916年、イッテンはベルリンのギャラリー「デア・シュトゥルム」で初めての個展を開催した。ヘルヴァルト・ヴァルデンが主催したこの展覧会で、彼は鮮烈な色彩とリズミカルな形態を特徴とする表現主義的な作品群を発表している。《出会い》はこの時期を代表する作品の一つとされ、象徴的な人物像と単純化されたリズミカルな輪郭を通じて、彼の様式が発展していく過程を示している。

バウハウス以前の予兆

美術史家たちは、この絵がバウハウス創設の3年前に描かれたにもかかわらず、円・正方形・螺旋といった幾何学的形態の使用や、光と影の対比、そして多様な色彩の配置など、バウハウスの造形言語の多くの特徴をすでに先取りしていると指摘している。1919年、イッテンはヴァルター・グロピウスによって、画家リオネル・ファイニンガー、彫刻家ゲルハルト・マルクスとともに、創設されたばかりのバウハウスの最初期のマイスターとして招かれることになる。

見どころ

人物を思わせる暗い輪郭

画面上部には、暗い赤紫色に染まった人物のような輪郭が描かれている。単純化されたこの形態は、写実的な描写というより、象徴的な存在感を放つ図像として構成されている。

中心で渦巻く螺旋

画面下部には、灰、黄、青緑、桃色など多様な色彩が渦を巻くように配置された螺旋形が描かれている。この螺旋こそがこの絵の核心であり、後年イッテンが理論化することになる色相環の発想の萌芽をここに見ることができる。

幾何学的に区切られた背景

画面周囲には、赤、緑、黄、青といった色面が幾何学的な帯状に配置されている。この構成が、人物と螺旋という中心的なモチーフを引き立てる装飾的な枠組みとして機能している。

光と影の対比

画面全体には、明るい色調と暗い色調が意図的に対比するように配置されている。この対比こそが、イッテンが後にバウハウスで教えることになる色彩理論の核心的な要素の一つだ。

その後の展開

イッテンはこの後、色彩理論の探求をさらに深め、1961年には「色相環(ファルプクライス)」と呼ばれる12色からなる独自の色彩体系を発表することになる。彼はこの理論を、師であるヘルツェルの色彩論をさらに発展させたものと位置づけており、その集大成は著書『色彩の芸術』にまとめられている。

実際に見るには

本作はチューリヒ美術館に貸与されている。イッテンの色彩理論に関する著作や、バウハウス時代の他の教育資料とあわせて見ることで、彼が生涯をかけて追求した色彩と形態の探求の全体像をより深く理解することができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「単なる表現主義的な抽象画」として片付けられがちだが、実際にはバウハウスの造形理念や、イッテン自身が後に体系化する色彩理論の萌芽がすでに明確に表れている、重要な過渡期の作品である。単独の様式実験としてではなく、彼の色彩理論家としてのキャリア全体の出発点として見ることで、この絵の歴史的な意義がより見えてくる。

FAQ

Q. 《出会い》はどこで見られますか?
チューリヒ美術館に貸与されている。

Q. この絵はいつ制作されましたか?
1916年に制作された。

Q. イッテンはどんな画家ですか?
スイスの表現主義画家で、後にバウハウスの初期マイスターとして色彩理論を教えたことで知られている。

Q. なぜこの絵はバウハウスの様式を先取りしているとされるのですか?
円・正方形・螺旋といった幾何学的形態や、光と影の対比、多様な色彩の展開が、後のバウハウスの造形言語の特徴とすでに共通しているためである。

Q. イッテンは誰に師事しましたか?
シュトゥットガルト美術アカデミーで、色彩理論の先駆者アドルフ・ヘルツェルに師事した。

まとめ

《出会い》は、バウハウス創設以前に描かれながら、その造形理念の多くをすでに予告していた1枚だ。中心で渦を巻く色彩の螺旋には、イッテンが生涯をかけて探求することになる色彩理論の、確かな出発点が刻まれている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次