《婚礼》とは|レジェが挑んだ「色彩の戦い」

《婚礼(仏:La Noce)》は、フランスの画家フェルナン・レジェが1911年から12年にかけて手がけた油彩画で、現在はパリのポンピドゥー・センター、国立近代美術館に所蔵されている。結婚式の行列を主題にしたこの絵は、キュビスムでありながら未来派的な躍動感をも併せ持つ、当時のパリの前衛美術のなかでも異彩を放つ1枚だ。今回はこの絵が発表当時にどう受け止められたか、そしてレジェが挑んだ「色彩の戦い」について見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者フェルナン・レジェ(1881〜1955)
制作年1911〜12年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約257×206cm
所蔵ポンピドゥー・センター、国立近代美術館(パリ)
初出1912年サロン・デ・ザンデパンダン(当初は「人物のある構成」として出品)

一言でいうと

灰色とベージュに沈みがちだった当時のキュビスムに、あえて鮮やかな色彩をぶつけてみる。結婚式の行列という賑やかな主題を借りて、レジェは自分なりの「色彩の戦い」に挑んでいた。

制作背景

サロンで物議を醸した「宣言作」

この絵は、レジェにとって「森の中の裸婦(1909〜10年、オッテルロー、クレラー=ミュラー美術館所蔵)」に続く2作目の「宣言的な」大作とされている。1912年3月のサロン・デ・ザンデパンダンに「人物のある構成」という題名で出品されると、当時ピカソやブラックの分析的キュビスムと同時代のこの絵は大きな話題を呼んだ。詩人ギヨーム・アポリネールでさえ、当初はこの絵を「未完成の作品」と見なして戸惑いを示している(「ル・プティ・ブルー」紙、1912年4月3日付)。

綿密な準備を経て生まれた大作

意外なことに、この一見混沌とした画面は、より小さなサイズ(82×68cm、個人蔵)の準備素描を経て周到に構想されたものだった。単なる即興ではなく、計算された構成のもとに描かれた大作だったことがうかがえる。

ピュトー・グループと「色彩の戦い」

レジェは、ロベール・ドローネーをはじめとするピュトー・グループに近しい立場にあった。当時のキュビスムが、ベージュや灰色を主体としたほぼモノクロームの格子状構成に傾いていたのに対し、レジェはこれに反発する形で、自らが「色彩の戦い」と呼んだ試みに取り組んでいた。この絵に見られる青、赤、緑といった鮮やかな色面の使用は、まさにその実践の一端といえる。

見どころ

画面中央の新郎新婦

この風俗画的な場面の手前中央には、新郎新婦の姿が配置されている。周囲を取り巻く動的な群衆のなかで、2人の存在が構図の焦点となっている。

断片化された人物群

画面全体には、幾何学的に分解された人物たちの姿が幾重にも重なり合っている。分析的キュビスムの手法を踏まえながらも、静的な構成にとどまらない、行列という主題にふさわしい動きが画面に満ちている。

鮮やかな青と緑の色面

画面には、青いドレスをまとった人物や、緑色の衣装の断片が随所に配置されている。同時代の他のキュビスム作品と比べて際立つこの色彩の豊かさこそが、レジェが目指した「色彩の戦い」の成果だ。

右側に描かれた建物群

画面右には、家々の連なりを思わせる幾何学的な形態が配置されている。人物群像と建築的な要素が同じ画面のなかで共存することで、結婚式という出来事全体を包み込む都市や村の空気が伝わってくる。

その後の展開

この絵の制作と前後して、レジェは徐々に円筒形を基調とした独自の造形言語へと向かっていく。「ル・パサージュ・ア・ニヴォー(1912年、バイエラー財団所蔵)」など、より現代的な主題を扱う作品や、「形態のコントラスト」と呼ばれる連作へと展開していくことになる。アポリネールは後年、ドローネーとレジェの芸術を「オルフィスム・キュビスム」と名付けているが、レジェ自身は色彩の優位を唱えたドローネーとは異なり、線・形・色のバランスを志向していたと語っている。

実際に見るには

本作はパリのポンピドゥー・センター、国立近代美術館に所蔵されている。2018年から19年にかけて開催された「キュビスム」展をはじめ、キュビスムをテーマとした展覧会にたびたび出品されており、同時代のピカソやブラック、メッツァンジェらの作品とあわせて見ることで、キュビスムという運動が内包していた多様性をより深く理解することができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「典型的な分析的キュビスムの一例」として片付けられがちだが、実際には当時のキュビスムの主流だったモノクロームの傾向にあえて反発し、鮮やかな色彩を持ち込むという独自の姿勢が込められている。単なる様式的な模倣としてではなく、レジェ自身が「色彩の戦い」と呼んだ意識的な挑戦の記録として見ることで、この絵の独自性がより見えてくる。

FAQ

Q. 《婚礼》はどこで見られますか?
パリのポンピドゥー・センター、国立近代美術館に所蔵されている。

Q. この絵はいつ、どこで初めて発表されましたか?
1912年3月のサロン・デ・ザンデパンダンに、「人物のある構成」という題名で出品された。

Q. 発表当時の評価はどうでしたか?
物議を醸し、詩人アポリネールでさえ当初は未完成の作品と見なして戸惑いを示した。

Q. なぜこの絵はこれほど色彩が豊かなのですか?
当時のモノクロームに傾いたキュビスムへの反発として、レジェが「色彩の戦い」と呼んだ試みを実践していたためである。

Q. この絵は準備なしに描かれたのですか?
いいえ。より小さなサイズの準備素描を経て、周到に構想された作品である。

まとめ

《婚礼》は、当時のキュビスムが傾いていたモノクロームの美学に、あえて鮮やかな色彩をぶつけたレジェの意欲作だ。断片化された人物群と大胆な色面の対比のなかに、彼が生涯を通じて追求することになる、線・形・色の均衡への模索がすでに芽生えている。

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