《路上の5人の女性》とは|キルヒナーが街娼に見た都市の不安

《路上の5人の女性(独:Fünf Frauen auf der Straße)》は、ドイツ表現主義の画家エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーが1913年に手がけた油彩画で、現在はケルンのルートヴィヒ美術館に所蔵されている。羽根飾りのついた帽子をかぶった女性たちが並んで立つこの絵は、キルヒナーが手がけた「ベルリン街頭風景」連作の記念すべき第1作だ。今回はこの連作が生まれた背景と、当時のベルリンという急成長する大都市が抱えていた不安がどのように表現されているのかについて見ていく。

目次

基本情報

項目内容
作者エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー(1880〜1938)
制作年1913年
技法・素材油彩・カンヴァス
サイズ約120×90cm
所蔵ルートヴィヒ美術館(ケルン)
連作「ベルリン街頭風景」の第1作

一言でいうと

羽根飾りの帽子をかぶった女性たちが、まるでレビューの踊り子のように舞台めいた空間に並ぶ。彼女たちが実は当時のベルリンの街娼であることを知ると、この華やかな絵の見え方は一変する。

制作背景

ブリュッケ解散直後に生まれた連作

「街頭風景」は、キルヒナーが1913年から1915年にかけて手がけた一連の作品群で、1913年5月にドレスデンで結成された芸術家グループ「ブリュッケ(橋)」がメンバー間の対立によって解散した、まさにその直後の時期に始まっている。ブリュッケは1911年にベルリンへ拠点を移していたが、急速に発展するこの大都市が抱えていた都市部の貧困や売春、増え続ける新住民に対応しきれないインフラといった問題が、グループ内に大きな分裂を生んでいた。

街娼という主題の選択

キルヒナーはこの連作で、都市そのものを象徴する主題として、当時としては型破りな「街娼」というモチーフを選んでいる。ぎざぎざとした形態、落ち着きのない筆致、そして刺々しい色彩によって、彼はベルリンという近代都市が抱える魅惑と興奮、そして孤独や退廃、危険といった相反する側面を同時に描き出そうとした。

舞台のような空間構成

この絵でキルヒナーは、女性たちを舞台を思わせる空間のなかに配置し、まるでレビューの踊り子たちのように演出している。リズミカルに並んだ人物像の増殖する様子は、都市そのものが持つ過剰さと呼応しているとも解釈されている。

見どころ

鳥の羽根を思わせる帽子

女性たちがかぶる凝った装飾の帽子は、まるで美しい鳥たちの羽根のように描かれている。街娼というモチーフでありながら、キルヒナーはこの姿を否定的にではなく、どこか肯定的で魅力的なものとして描いており、この構図は後の連作でも繰り返し用いられている。

限定された色彩の対比

この絵では、黄色と白、黒というごく限られた色調だけが用いられている。この大胆な色の絞り込みが、他の色彩豊かな作品以上に鮮烈で人を引きつける効果を生み出している。

右を見つめる女性たちの視線

画面の女性たちは、そろって画面右側へと視線を向けている。近くの店のショーウィンドウを見ているのか、あるいは客を探しているのか、その視線の先には解釈の余地が残されている。

画面左端の車輪

画面左端には、車の車輪の一部が描き込まれている。この小さな細部は、彼女たちを一晩雇おうとする客の存在を暗示しているとも読み取れる。

その後の展開

この絵をきっかけに、キルヒナーは「ベルリン街頭風景」として知られる11点の油彩画からなる連作を完成させていく。制作が進むにつれて構図の躍動感は増していき、未来派の様式的要素やマニエリスムの影響も見て取れるようになる。多くの作品は1914年までに、一部は1915年から1920年代にかけて完成した。キルヒナー自身はこの連作をもとに、翌1914年に木版画版も制作している。

実際に見るには

本作はケルンのルートヴィヒ美術館に所蔵されている。1926年にエッセンのフォルクヴァング美術館が購入したのち、複数の所蔵先を経て現在の美術館に収蔵された。連作の他の作品、たとえば「ベルリンの街頭風景」はニューヨークのノイエ・ギャラリー、「街、ベルリン」はニューヨーク近代美術館に所蔵されており、あわせて見ることでこの連作全体の展開をたどることができる。

よくある誤解

この絵はしばしば「華やかな都会の女性たちを描いた風俗画」として単純に鑑賞されがちだが、実際には当時のベルリンにおける売春という社会問題を、都市の魅惑と不安が入り混じる象徴として扱った作品である。単なる装飾的な人物画としてではなく、急成長する近代都市が抱えていた矛盾を映し出す鏡として見ることで、この絵の本来の重みがより見えてくる。

FAQ

Q. 《路上の5人の女性》はどこで見られますか?
ケルンのルートヴィヒ美術館に所蔵されている。

Q. 描かれている女性たちは誰ですか?
当時のベルリンの街娼(コケット)たちであり、都市の魅惑と不安を象徴する存在として描かれている。

Q. この絵はどんな連作の一部ですか?
1913年から1915年にかけてキルヒナーが手がけた「ベルリン街頭風景」連作の第1作である。

Q. なぜこの連作は生まれたのですか?
急速に発展するベルリンの都市問題や、芸術家グループ「ブリュッケ」の解散という背景のもとで制作が始まった。

Q. この絵にはどんな色彩が使われていますか?
黄色、白、黒という限定された色調だけで構成されている。

まとめ

《路上の5人の女性》は、街娼という当時としては挑発的な主題を、舞台のような華やかな空間演出のなかに描き出した1枚だ。急成長するベルリンという都市が抱えていた魅惑と危うさが、羽根飾りの帽子と限定された色彩のなかに、鮮烈に凝縮されている。

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